最大限の慰謝料を獲得したい
1.交通事故で慰謝料が発生するケース
交通事故において慰謝料を請求することができるのは、原則として人身事故に限られます。
物損事故の場合、事故によって損害を受けたのは車などの財産であり、その財産に対する賠償を果たせば原状回復としては足りると考えられているためです。
もっとも、物損事故の場合であっても、可愛がっていたペットが怪我や死亡した場合や、自宅に自動車が突っ込んで自宅が損傷した場合などの特別なケースでは、例外的に慰謝料請求が認められることもあります。
人身事故の場合、基本的にどのようなケガ(傷病名)であっても、事故によってケガを負い精神的苦痛を被ったものとして、慰謝料請求ができます。
ただし、後でも説明しますが、入院・通院に関する慰謝料は、入通院の期間や頻度によって額が変わっていきます。
入通院期間が長くなると、それに比例して慰謝料の金額も上がる計算となっています。
そのため、事故によってケガをした場合、ケガの治療はもとより、正当な慰謝料を請求するためにも、しっかり入通院することが重要です。
2.交通事故における慰謝料の種類
交通事故における慰謝料は、以下の3種類があります。
2-1 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
入通院慰謝料(傷害慰謝料)は、事故によってケガを負い、ケガの治療のために入院・通院を余儀なくされたことの精神的苦痛を補填するものです。
入通院慰謝料は、原則として入通院期間を基礎として算定されます。
入通院期間が長くなると、その分慰謝料の金額も上がる計算となっています。
ただし、一定程度の通院頻度・間隔が保たれていることが必要です。
2-2 後遺症慰謝料
後遺症慰謝料とは、事故によって被害者に後遺障害が残り、後遺障害等級申請によって自賠法が定める1級から14級までの後遺障害等級に該当した場合に請求できる慰謝料です。
事故によって将来にわたり後遺障害が残ってしまったことの精神的苦痛を補填するものです。
後遺症慰謝料は、自賠責基準及び弁護士基準ともに、1級から14級にかけて等級ごとに基準となる慰謝料額が定められています。
2-3 死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、事故によって被害者が死亡した場合、被害者本人とその遺族が受ける精神的苦痛を補填するものです。
被害者本人は事故によって死亡していますが、本人分の慰謝料請求権が発生し、これを遺族が相続すると考えられています。
また、一定範囲の親族は、本人の慰謝料とは別に、遺族固有の慰謝料を請求することができます。
死亡慰謝料については、こちらのページもご覧ください。
3.慰謝料算定の「3つの基準」
一般的に、交通事故の慰謝料については、「3つの基準」があるとされています。
3つの基準とは、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)のことを言います。
自賠責基準
正式名称は「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」と言い、自賠責保険で慰謝料を算定する際に用いられる基準です。
交通事故の被害者を最低限補償するもので、自賠責基準で定められた額は特段の事情がない限り受け取れます。
その反面、3つの基準のうち、最も金額が低いです。
任意保険基準
任意保険会社で慰謝料を算定する際に用いられる基準です。
任意保険会社ごとに独自に定められており、その基準は公表されませんが、自賠責基準の金額に若干上乗せした程度の金額になることが多いです。
弁護士基準(裁判基準)
弁護士や裁判所が慰謝料を算定する際に用いられる基準です。
これまでの数多の裁判例に基づいて作成された基準であり、3つの基準のうち、最も金額が高いです。
この3つの基準があることを理解した上で、入通院慰謝料、後遺症慰謝料、死亡慰謝料ごとに各基準の考え方・金額を見てみましょう。
3-1 入通院慰謝料
3つの基準のうち、任意保険基準は各保険会社によって基準が異なり、かつ非公表ですので、ここでは割愛します。
(1)自賠責基準による入通院慰謝料
自賠責基準の場合、入通院慰謝料は「1日につき4300円」で計算します(2020年4月1日以降に発生した交通事故の場合)。
入院か通院かで金額に差はありません。
慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を考慮して、治療期間の範囲内とされます。
実際の計算方法としては、「総治療日数」又は「実通院日数×2」のいずれか少ない方の日数に4300円を掛けて入通院慰謝料を算定します。
(2)弁護士基準(裁判基準)による入通院慰謝料
弁護士基準の場合、以下にある「別表Ⅰ」と「別表Ⅱ」という入通院慰謝料の基準表を用いて慰謝料額を算定します。
別表Ⅰは、骨折や脱臼など、重傷のケースで用います。
別表Ⅱは、むち打ち、打撲、挫創(挫傷)等でレントゲンやMRIで異常所見が認められない比較的軽微なケースで用います。
基準表をご覧頂ければ分かるとおり、別表Ⅰの方が重傷である分、別表Ⅱに比べて慰謝料額も高く設定されています。
また、通院よりも入院の方が高く設定されています。
別表Ⅰ
別表Ⅱ
この表の見方として、いくつかポイントがあります。
それが以下です。
・慰謝料算定では、「1月」=30日とします。
・入院のみの場合、入院期間に相当する額となります。例えば、別表Ⅰで入院3ヶ月で完治した場合、「入院」の「3月」にある「145万円」が慰謝料額となります。
・通院のみの場合、通院期間に相当する額となります。例えば、別表Ⅱで通院3ヶ月で完治した場合、「通院」の「3月」にある「53万円」が慰謝料額となります。
・入院の後に通院があった場合、該当する月数が交差するところの額となります。例えば、別表Ⅰで入院1か月、通院6か月の場合、「入院」の「1月」と「通院」の「6月」が交差する「149万円」が慰謝料額となります。
・通院期間が5か月と15日のように、1月(30日)に満たない端数がある場合、別途日割り計算が必要となります。
ただし、常に入通院期間を基礎として慰謝料が算定されるとは限りません。
むち打ちで他覚的所見がない場合など比較的軽微のケースでは、入通院期間を基礎とすることが原則であるものの、通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度を踏まえて、実通院日数の3倍程度を通院期間とみなして慰謝料計算されることがあります。
「実通院日数×3倍」で算定する場合、入通院期間を基礎にして算定する場合に比べて慰謝料額が下がってしまうことから、通院頻度が極端に低くならないようにすることが大切です。
また、別表Ⅰが適用されるような重傷のケースでも、通院期間が長期化する反面、通院頻度が少ない場合、「実通院日数×3.5倍」で算定される可能性があります。
なお、現実に入院していなくても、入院待機中の期間中であったり、ギプスを付けた状態で自宅療養した期間については、入院期間としてカウントされる可能性があります。
ただし、ポリネックや頸部コルセットによる固定は対象になりません。
(3)自賠責基準と弁護士基準による計算例・比較
では、具体例に沿って、自賠責基準と弁護士基準それぞれの入通院を算定し、比較してみましょう。
【具体例】
- 傷病名
- むち打ち
- 入院期間
- なし
- 通院期間
- 4か月(120日)
- 実通院日数
- 40日
自賠責基準では、慰謝料の日額が4300円であり、「総治療日数」又は「実通院日数×2」のいずれか少ない方の日数に4300円を掛けて入通院慰謝料を算定します。
具体例では、実通院日数40日×2の日数が80日であり、通院期間4カ月(120日)より少ないことから、80日に4300円を掛けることになります。
よって、日額4300円×80日=34万4000円が自賠責基準による入通院慰謝料となります。
一方、弁護士基準では、傷病名がむち打ちであることから、別表Ⅱの基準を用います。
弁護士基準では原則として入通院期間を基礎とすることから、通院期間4カ月が基礎となります。
そして、別表Ⅱによれば、通院4か月の慰謝料額は67万円です。
このように、上記の具体例によれば、自賠責基準による慰謝料額よりも弁護士基準による慰謝料額の方が2倍近い金額になることが分かります。
それゆえに、最大限の慰謝料を獲得するためには、弁護士に依頼した方がよいのです。
3-2 後遺症慰謝料
前述のとおり、後遺症慰謝料は、自賠責基準及び弁護士基準ともに、1級から14級にかけて等級ごとに基準となる慰謝料額が定められています。
ただし、当然ながら各基準ごとに金額は異なり、自賠責基準よりも弁護士基準の方が慰謝料は高額となっています。
自賠責基準の金額と弁護士基準の金額を比較するために、以下のとおりまとめました(2020年4月1日以降に発生した交通事故の場合)。
なお、慰謝料の支払基準として任意保険基準がありますが、これは各保険会社によって基準が異なり、かつ非公表ですので、比較対象からは除外します。
もっとも、一般的に、任意保険基準は、自賠責基準による金額に若干上乗せした程度の金額にとどまることが多いです。
後遺症慰謝料の比較(単位:万円)
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級・要介護 | 1,650 | 2,800 |
2級・要介護 | 1,203 | 2,370 |
1級 | 1,150 | 2,800 |
2級 | 998 | 2,370 |
3級 | 86 | 1,990 |
4級 | 737 | 1,670 |
5級 | 618 | 1,400 |
6級 | 512 | 1,180 |
7級 | 419 | 1,000 |
8級 | 331 | 830 |
9級 | 249 | 690 |
10級 | 190 | 550 |
11級 | 136 | 420 |
12級 | 94 | 290 |
13級 | 57 | 180 |
14級 | 32 | 110 |
後遺症慰謝料は、基本的に、自賠責保険に後遺障害等級申請をして、損害調査事務所の調査を経て1級から14級の等級に該当した場合に請求可能となるものです。
それゆえに、適正な後遺障害等級を受けることは非常に重要となってきます。
後遺障害等級認定については、こちらのページをご覧ください。
3-3 死亡慰謝料
3つの基準のうち、任意保険基準は各保険会社によって基準が異なり、かつ非公表ですので、ここでは割愛します。
(1)自賠責基準
自賠責基準では、被害者本人と遺族の死亡慰謝料として、それぞれ以下のように定められています。
被害者本人の死亡慰謝料 400万円※
※令和2年4月1日以降に発生した交通事故により死亡した場合
- 請求者(遺族※)1人
- 550万円
- 請求者2人
- 650万円
- 請求者3人以上
- 750万円
- 被害者に被扶養者がいるとき
- 上記金額に200万円を加算
※被害者の父母(養父母を含む)、配偶者、子(養子、認知した子及び胎児を含む)
では、具体例に沿って、自賠責基準の死亡慰謝料を算定してみましょう。
【例:被害者に配偶者1名、未成年の子が2人いる場合】
- 被害者本人の慰謝料
- 400万円
- 遺族固有の慰謝料
- 750万円(請求者3人)+200万円(被扶養者あり)
- 死亡慰謝料の合計
- 400万円+750万円+200万円=1350万円
ただし、自賠責基準では、死亡に係る損害について支払われる賠償金の上限が3000万円と決まっています。
そのため、死亡慰謝料や死亡逸失利益で3000万円を超える損害が発生している場合、超えた部分の損害については加害者側の任意保険会社に請求する必要があります。
(2)弁護士基準(裁判基準)
弁護士基準では、被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料を合計した金額が目安として定められています。
当該基準では、被害者の属性や家庭内での役割・立ち位置によって慰謝料額が区別されています。
具体的には、以下のとおりです。
- 一家の支柱
- 2800万円
- 母親、配偶者
- 2500万円
- その他
- 2000万円~2500万円
このように、被害者が家計を支える立場であったり、家事や子育てを担っている立場である場合、相対的に慰謝料は高額となります。
「その他」とは、独身の男女、子供、幼児、高齢者、内縁関係にあった者等を指します。
この基準は一応の目安を示したものであり、具体的な金額は、個別の事情を踏まえて増減する可能性があります。
ただし、この基準は、あくまでも弁護士が請求した場合に採用される基準です。
弁護士が介入していない場合、任意保険会社は、自賠責基準か、自賠責基準の基準に若干上乗せした任意保険基準の限度で死亡慰謝料を算定することが多いですので、注意してください。
なお、死亡事故の遺族の方は、こちらのページもご覧ください。
4.慰謝料が相場よりも増額されるケース
慰謝料の種類を問わず、事故態様や加害者の対応に特別悪質、危険な事情があった場合、その分被害者が受けた精神的苦痛もより増大するとして、慰謝料の増額が認められる傾向にあります。
慰謝料が増額しうる事情としては、主に以下のようなものがあります。
- ・事故態様が殺人と言えるような残酷・危険なものであった
- ・複数人が死亡するような凄惨な事故であった
- ・加害者が無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、信号無視、薬物摂取など悪質性が際立っている
- ・加害者が事故に関して証拠隠滅をした
- ・加害者が示談交渉や訴訟で虚偽の発言をしたり、被害者や遺族を挑発・侮辱したり、著しく不相当な主張をした
- ・被害者遺族の健康面、学業面、仕事面に悪影響が生じた
増額が認められるとして、その増額幅は、基準となる金額の数割増しとするケースや、100万円~数百万円の範囲で増額するケースなど、慰謝料の種類や増額事由によってまちまちです。
5.慰謝料減額の原因を作らないために
入通院慰謝料が減額される原因を極力なくし、十分な慰謝料を支払ってもらうためには、以下の各点に留意しましょう。
5-1 入通院期間を意識して、早々に治療を止めたりしない
自賠責基準も弁護士基準も、入通院慰謝料は入通院期間を基礎として算定するのが原則です。
とりわけ弁護士基準では、入通院期間が長くなると、その分慰謝料の金額も上がる計算となっています。
そのため、ケガをした身体を治すためにも、十分な慰謝料を支払ってもらうためにも、治癒又は症状固定まで通院を継続することが重要です。
いつ頃まで通院を継続するか、医師と相談しながら通院を続けるようにしましょう。
間違っても「仕事が忙しいから」といった理由で独断で通院を止めてはいけません。
また、保険会社から治療費の打ち切りを打診された場合、ケガの回復のため、また、適正な入通院慰謝料の獲得のため、自覚症状や担当医の見解を伝えるなどして、一括対応の継続・延長を求めるようにしましょう。
5-2 一定の通院頻度を維持する
弁護士基準では、入通院慰謝料は原則として入通院期間を基礎として算定しますが、治療期間が長期化した場合、症状、治療内容、及び治療頻度を踏まえて実通院日数を基礎として算定されることもあります。
実通院日数で算定する場合、入通院期間で算定する場合よりも慰謝料の金額は低くなってしまいます。
そのため、経過観察のため通院頻度が上がらない場合はさておき、リハビリの場合は一定の頻度で通院するようにしましょう。
具体的な頻度についてはケースバイケースですが、1週間に複数回、1か月で少なくとも10日以上といったところが一つの目安にはなると思います。
反対に、1か月に1回行くか行かないか、2か月に1回といった頻度はかなり低いと言わざるを得ません。
このような場合、実通院日数での計算になる可能性が高まるだけでなく、保険会社から早期に治療費を打ち切られてしまったり、事故との因果関係を否認されてしまう可能性も高まります。
5-3 リハビリだけでなく診察も定期的に受ける
むち打ち等のケガでは、身体機能の回復のためリハビリを継続したり、薬の処方を受けることが通常です。
その場合、1か月に1回や2週間に1回など、担当医による診察も定期的に受け、自覚症状の内応や推移を都度伝えるようにしましょう。
それによって、リハビリの内容が適宜変更されたり、相手保険会社にも治療中であることが伝わりやすくなり、安易に治療費を打ち切られる確率を下げることができます。
反対に、診察を受けないまま同じ内容にリハビリをずっと続けていると、保険会社から「通院は続けているが症状は変わっていないのではないか。
症状固定ではないか」と思われ、予想より早いタイミングで打ち切りを宣告されてしまう可能性があります。
5-4 接骨院や整骨院に通いたい場合は、医師の指示や同意を得る
接骨院や整骨院での施術は、医師による医療行為ではないことから、医師の指示や許可なく独断で接骨院等に通うと、保険会社からケガの治療であることを否認されたり、通院日数(期間)としてカウントしてもらえなくなる可能性があります。
通院日数(期間)として認められない場合、その分慰謝料の金額も低くなってしまいます。
そのため、ケガの治療のため接骨院等に通いたい場合、予め医師の指示や許可をもらい、保険会社に対して接骨院等に通いたい旨を伝えてから通院するようにしましょう。
6.最大限の慰謝料獲得を目指すなら京浜蒲田法律事務所にご相談ください
当事務所は、交通事故の被害者側専門の弁護士事務所であり、これまで300件以上の交通事故案件を解決してきました。
これまで積み重ねてきた多くの経験に基づき、慰謝料増額の見通しを立てるだけでなく、実際に最大限の慰謝料を獲得するための弁護活動ができると自負しております。
弁護士基準は弁護士や裁判所が使用する基準であり、弁護士が介入していない状態で弁護士基準を主張しても、保険会社が認めてくれることはほぼありません。
そのため、適正で十分な慰謝料を獲得したい方は、交通事故の経験が豊富な京浜蒲田法律事務所にご相談ください。
弁護士費用補償特約が利用できる場合はもとより、利用できない場合であっても、慰謝料その他の損害項目の増額ができそうか、見通しをお伝えすることができますので、お気軽にご相談ください。