交通事故の逸失利益とは?計算方法や慰謝料との違いを解説
交通事故の被害者は、通院が長引くと治療費の負担も重なるため、生活への不安も大きくなります。たとえケガの治療が終わっても、後遺症が残れば以前と同じように働けなくなり、将来の収入が大幅に減ってしまうかもしれません。
もし事故が起きなければ将来得られたはずの収入のことを「逸失利益」といいます。
逸失利益は、加害者側に請求できる賠償金のなかでも、金額が数百万円から数千万円と非常に大きくなることが多い項目です。
しかし、逸失利益の算定は簡単ではありません。また相手の保険会社が提示してくる金額が正しいとは限らないため、慎重な交渉を要します。
そこでこの記事では、逸失利益の具体的な計算方法や慰謝料との違い、適正な金額を受け取るための手続きの流れなどを、交通事故の事件処理に通じた弁護士がわかりやすく紹介します。
目次
逸失利益とは何か?慰謝料や休業損害との違い
交通事故の損害賠償において請求できるお金には、逸失利益のほか慰謝料や休業損害などがあります。それぞれの目的や対象期間を整理したので参考にしてください。
| 項目 | 補償の目的 | 対象期間 |
| 逸失利益 | 労働能力の低下による将来の収入減少を補償するもの | 症状が固定した時から原則として67歳まで |
| 慰謝料 | 事故やケガ、後遺障害を負ったこと等による精神的な苦痛を補償するもの | 事故日から治癒または症状固定日まで(入通院慰謝料)/症状固定後(後遺障害慰謝料)/死亡した場合(死亡慰謝料) |
| 休業損害 | ケガの治療のために仕事を休んだことによる収入減少を補償するもの | 事故日から症状固定日までのうち、実際に休業した期間(就労できなかった日) |
休業損害が「症状が固定するまでの減収」を補償するのに対し、逸失利益は「症状が固定したあとの将来の減収」を補償するという明確な違いがあります。
また、慰謝料は精神的な苦痛に対する補償であり、収入の減少とは関係ありません。そのため逸失利益と慰謝料は個別に計算して請求できます。
逸失利益を請求するために必要な3つの条件
逸失利益は将来の収入減少を補償する重要な項目ですが、交通事故に遭えば誰でも自動的に認められるわけではありません。
相手方に請求するためには、主に以下の3つの条件を満たす必要があります。
1. 症状固定の診断を受けること
ケガの治療を継続し、これ以上治療を続けても症状の劇的な改善が見込めない状態になることを「症状固定」といいます。
逸失利益は症状固定の時点から先の将来について計算されるため、まずは適切な治療を受けて症状を固定させることが必要です。
2. 後遺障害等級の認定を受けること
症状固定のあとに身体に残った症状が、法律で定められた第1級から第14級までの「後遺障害」のいずれかに認定される必要があります。
後遺障害等級の認定を受けられなければ、原則として逸失利益を請求することはできません。後遺障害の有無は客観的かつ医学的な根拠に基づいて証明します。
3. 労働能力の喪失と減収が認められること
後遺障害の影響で働く能力が低下し、収入が減少する状況であることが求められます。
注意したいのは、事故前と同じ会社で働き続け、現在の収入が減っていないケースでも請求できる場合があることです。痛みがあるのに無理をして働いていたりするような場合、昇進が遅れるなど不利益を被る可能性があるからです。
不利益の程度が大きいと判断されれば、労働能力の喪失が認められて逸失利益を請求できる可能性があります。この判断はかなり専門的になるため、交通事故に詳しい弁護士などから助言をもらうと良いでしょう。
後遺障害による逸失利益の計算方法と早見表
後遺障害による逸失利益は、次の式を用いて算出します。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
計算の元になるそれぞれの要素について説明します。
基礎収入とは
基礎収入とは、被害者が事故に遭う前の1年間に得ていた収入のことです。被害者の職業や立場によって、ベースにする金額が以下のように異なります。
(会社員)事故前年に発行された源泉徴収票に記載されている、税金などを引かれる前の総支給額(年収)を使います。
(会社役員)役員報酬のうち、利益の配当にあたる部分は除外され、実際の労働に対する対価である労務提供部分のみが基礎収入として認められます。
(個人事業主)事故前年の確定申告書にある所得金額(売上から経費を引いた金額)が基準になります。
(専業主婦)家事労働には経済的価値があるとみなされるため、国の統計データである賃金センサスの女性全年齢平均賃金を基礎収入として扱います。
(子どもや学生)将来働く年齢になったときの平均賃金(男女別の全年齢平均賃金など)を用いて計算します。
労働能力喪失率とは
労働能力喪失率とは、後遺障害によって働く能力がどのくらい失われたかをパーセントで表したものです。これは認定された等級に応じて、あらかじめ割合が定められています。
認定等級と労働能力喪失率の関係、該当する症例の一部を表にしましたので参考にしてください。
| 認定等級 | 労働能力喪失率 | 該当する症状の例 |
| 第1級 | 100パーセント | 両目が失明した、常に介護が必要な状態等 |
| 第7級 | 56パーセント | 神経系統または精神の障害が残り、軽い仕事以外はできない等 |
| 第14級 | 5パーセント | 局部に神経症状を残しているもの(むちうち等) |
労働能力喪失期間とライプニッツ係数
労働能力喪失期間とは、後遺障害の影響で将来働きづらくなる期間のことです。通常は、症状固定時の年齢から、就労可能年数の上限とされる67歳までの年数で計算します。
67歳以上の方や67歳に近い年齢の方は、「67歳までの年数」と「その年齢の人が平均してあと何年生きると見込まれるか(平均余命)の2分の1の年数」を比べて、長い方を労働能力喪失期間として使います。
たとえば被害者が70歳の男性であれば、67歳を超えているので就労可能年数はゼロですが、平均余命は15. 60年(※1)ですから、その2分の1である7. 80年を切り上げた8年(※2)を労働能力喪失期間として逸失利益を計算します。
※1厚生労働省:令和6(2024)年簡易生命表の概況、男・令和6年・70歳
※2国土交通省:就労可能年数とライプニッツ係数表、注1(2)
そして、非常に重要なのが「ライプニッツ係数」という数字です。
逸失利益は、将来の何十年にもわたって毎月少しずつ受け取るはずだった給料を、一括で前借りして受け取るような性質を持ちます。一括で大きなお金を受け取ると、多くの場合は銀行などに預けて運用することで利息を得ようとするはずです。
この将来発生するであろう利息をあらかじめ差し引くのが「中間利息控除」です。現在の法律では、中間利息控除に用いる法定利率は年3パーセントと定められています(ただし将来変動する可能性あり)。
逸失利益の計算では、単純に労働能力喪失期間を掛けるのではなく、中間利息分を控除したライプニッツ係数を掛けることで、加害者と被害者の双方にとって公平な金額を導き出す仕組みになっているわけです。
死亡事故による逸失利益の計算方法
交通事故で被害者が死亡してしまった場合の逸失利益は、一般的には「生きていれば得られたはずの将来の収入全額」と考えることができます。
ただし、後遺障害の場合とは計算式が一部異なるので確認しましょう。
計算式:基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
死亡事故の場合、労働能力は完全に失われた(喪失率100パーセント)と考えますが、その代わりに「生活費控除率」を差し引くのがポイントです。
死亡したことで将来の収入は失われましたが、生きていれば使ったはずの生活費はかからなくなります。そのため、収入のうち生活費に消えたであろう割合をあらかじめ差し引くルールになっているのです。
生活費控除率の割合は、被害者の家庭内での立場によって目安が決められており、家計を支えている「一家の支柱」にあたる方であれば30パーセントから40パーセントを差し引きます。それ以外の場合は、女性(主婦・独身・幼児等を含む)は30%、男性(独身・幼児等を含む)は50%程度を差し引くのが一般的です。
【ケース別】逸失利益の具体的な計算例
いくつか事例を挙げて、後遺障害による逸失利益が実際にいくらになるのかを計算してみます。計算例で使用しているライプニッツ係数は、法定利率年3パーセントに基づく数値です。
なお被害者が18歳未満であるケースについては計算が複雑になるため本記事では省略します。
会社員・45歳男性・後遺障害第7級
(基礎収入)事故前年の年収を500万円とします。
(労働能力喪失率)第7級の基準である56パーセント(0.56)です。
(労働能力喪失期間と係数)症状固定時が45歳なので、67歳までの期間は22年間となります。22年に対応するライプニッツ係数は15.937です。
計算式と逸失利益:500万円 × 0.56 × 15.937=約4462万円
専業主婦・50歳女性・後遺障害第14級
(基礎収入)専業主婦の場合は給与収入等はないため、賃金センサスの女性全年齢平均賃金を基礎収入とします(ここでは仮に430万円とします)。
(労働能力喪失率)第14級の基準である5パーセント(0.05)です。
(労働能力喪失期間と係数)むちうち等の神経症状の場合、労働能力喪失期間は通常5年間程度に制限されることが多くなります。5年に対応するライプニッツ係数は4.580です。
計算式と逸失利益:430万円 × 0.05 × 4.580=約98万円
適正な賠償金を受け取るための流れと注意点
逸失利益を含む適正な損害賠償金を受け取るためには、正しい手順を踏んで加害者側の保険会社との示談交渉を進めることが不可欠です。
一般的な流れとしては、治療を終えて「症状固定」となり、「後遺障害等級認定」の申請を行います。無事に等級が認定されたあと、その結果をもとに保険会社から賠償金の提示があり、「示談交渉」に入ります。双方が合意して示談書にサインをすると、指定した口座へ「支払い」が行われるという手順です。
この過程で損をしないために、知っておくべき3つの注意点があります。
1. 保険会社の提示金額は適切な基準より低いことが多い
保険会社が最初に提示してくる金額は、自社で定めた低い基準(任意保険基準)で計算されていることがほとんどです。これをそのまま受け入れるべきではありません。
特に逸失利益の計算において、保険会社は被害者の職業を理由に労働能力喪失率を不当に低く見積もったり、期間を短く設定してきたりすることが頻繁にあります。裁判所が認めている正当な基準(弁護士基準や裁判基準)で計算し直すことで、金額が大幅に増額するケースが非常に多いのです。
2. 過失割合(過失相殺)による大幅な減額リスク
交通事故において、被害者側にも前方不注意などの落ち度(過失)があったと判断されると、その過失の割合に応じて賠償金全体が減額されます。これを「過失相殺」と呼びます。
たとえば、賠償金の総額が1000万円で、被害者の過失割合が20パーセントとされた場合、受け取れる金額は800万円に減ってしまいます。この過失割合の判断についても保険会社の主張が正しいとは限りません。実際の事故状況と照らし合わせて妥当な割合かどうかを見極める必要があります。
3. 損害賠償請求の消滅時効
交通事故の損害賠償を請求する権利には期限があるため注意しましょう。
2020年4月1日施行の改正民法により、生命または身体を害する不法行為による損害(けが、後遺障害、死亡など)の損害賠償請求権は、「損害および加害者を知った時から5年」または「不法行為の時から20年」で時効により消滅します(民法724条の2)。
一方、物的損害(車の修理費など)は従来どおり「損害および加害者を知った時から3年」または「不法行為の時から20年」です(民法724条)。
後遺障害による逸失利益のように、損害の確定に時間がかかる場合は、症状固定の時点を踏まえて起算点を検討することがありますが、具体的にいつから進行するかは事案によって異なります。
示談交渉が続いていても時効は進むため、期限が近い場合は、時効の完成猶予(催告、仮差押え等)や更新(確定判決、裁判上の和解、強制執行や差押え等)といった手続きを検討する必要があります。
交通事故の悩みを弁護士に相談するメリットは2つ
交通事故の加害者との交渉は、逸失利益の計算のように専門的で複雑な内容が多く、被害者の方がご自身で保険会社と交渉するのは容易ではありません。そこで、おすすめするのが弁護士等の専門家に依頼することです。
正当な基準での交渉により金額の増額が見込める
被害者の代理人となった弁護士は、より高額な基準を用いて損害額の計算をやり直し、法的にたしかな根拠を持って保険会社と交渉を行います。結果として、逸失利益だけでなく慰謝料なども含めた賠償金総額が上がる可能性が高くなります。
面倒な手続きや精神的なストレスから解放される
ケガの治療で辛い思いをしているなか、知識も経験も豊富な保険会社の担当者と直接やり取りをするのは大変なストレスです。弁護士に依頼すれば窓口はすべて弁護士になり、直接の電話連絡などは来なくなります。事故に関連する煩雑な書類集めも任せられるため、被害者は治療や生活の再建に専念できます。
(まとめ)交通事故の逸失利益でお悩みの方は、京浜蒲田法律事務所にご相談ください
交通事故の被害者になったとき、事件を適正に解決するためには逸失利益についての専門知識と豊富な交渉経験が不可欠です。自分の逸失利益はいくらになるのか、保険会社からの提示額は妥当なのかなど、少しでも不安や疑問がある場合は示談書にサインしてはいけません。
京浜蒲田法律事務所では、交通事故の事件処理の経験が豊富な弁護士が、被害者のお気持ちを真摯に受け止め、加害者側と粘り強く交渉します。初回法律相談の費用は30分まで無料ですので、どうぞお気軽にご連絡ください。

