5歳の子どもも相続人になれますか?(未成年者の特別代理人)
親が亡くなった場合、子どもが相続人になりますが、子どもが5歳などの未成年者の場合は、相続人になれるのだろうかとふと疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
結論から言うと、子どもが未成年者であっても、子どもは相続人になることができます。
相続人になるための年齢制限はありません。
目次
胎児でも相続人になることができる
子どもは何歳から相続人になれるのかに関しては、民法に一つだけ規定があります。
民法886条1項には、「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」と規定されています。
胎児とは母体に宿っていて、まもなく生まれてくる可能性の高い子です。
医学的には、妊娠9週以降の子を胎児と呼んでいますが、いずれにしても、生まれてくる可能性が高ければ、胎児の時点で相続人になることができます。
そして、相続人になれなくなるのは、廃除されたり、相続人欠格事由に該当した場合を除くと、その人が死亡した時です。
つまり、胎児の時点から死亡する時までであれば、いつでも相続人になることができるということになります。
よって、5歳の未成年者も当然、相続人となることができます。
未成年の子どもが遺産分割協議に参加できるのか?
遺産分割協議に参加するためには、遺産分割により、被相続人の財産を承継したり、債務を承継する可能性があることを理解できることが前提です。
そのような理解力のことを民法では「行為能力」と呼んでいますが、人が完全な行為能力を備えるのは、成人した時です。
そして、昨今の民法改正により、2022年4月1日以降、成年年齢は20歳から18歳に引き下げられました。
よって、18歳に達していない未成年の子どもは、自分自身で遺産分割協議に参加することはできません。
このような場合は、未成年の子どもに代わって、法定代理人が遺産分割協議に参加することになります。
未成年の子どもの法定代理人は、一般的には親、つまり、親権者です。
しかし、未成年の子どもが相続人となるケースでは、同時に親も相続人となることが多く、親が子の代理人となることが利益相反に該当してしまうことがあります。
親と子どもが利益相反する場合、親が子どもの代理人として遺産分割協議を行っても無効になってしまいます。
具体的な事例で見てみましょう。
A夫、B妻と夫婦の実子であるC子(5歳)、D子(1歳)の4人家族がいました。
ところが、A夫が交通事故に遭って、亡くなってしまい、A夫の相続が開始しました。
A夫の主な遺産は、3000万円相当の住宅と1000万円の銀行預金です。
この場合、A夫の法定相続人は、B妻とC子、D子の3人です。
法定相続分は、B妻が2分の1、C子とD子が4分の1ずつになります。
このような事例では、B妻とC子、D子で遺産を分けるのは面倒なので、すべてB妻が相続して、名義を書き換えればよい、という考え方もあるかもしれません。
しかし、このような遺産分割をB妻が勝手にやってしまうことは認められていません。
B妻とC子、D子間で遺産分割協議を行う必要があります。
ところが、5歳のC子、1歳のD子は遺産分割を理解する能力がなく、遺産分割協議に参加できないため、代理人が必要です。
親権者であるB妻は、自分自身が遺産分割協議の当事者となっているため、利益相反の観点から、C子、D子の法定代理人となることができません。
そこで、C子、D子のために特別代理人を2人選任する必要があります。
C子、D子でまとめて1人の特別代理人でよいわけではなく、C子、D子それぞれに1人ずつ特別代理人が必要になります。
なぜなら、C子とD子の間でも利益相反する関係にあるからです。
特別代理人は、家庭裁判所に請求して選任してもらいます。
C子、D子に親族がいれば、特別代理人候補者として家庭裁判所に推薦することもできます。
例えば、C子、D子の祖父母や伯父伯母(叔父叔母)と言った人たちを推薦することが多いようです。
めぼしい特別代理人候補者がいない場合は、家庭裁判所が弁護士などの専門家から選任することになりますが、この場合は、専門家への報酬を支払う必要が生じます。
報酬は、家庭裁判所への申立ての際に予納金と言う形で支払うことになります。
特別代理人が選任された場合、どのような形で、遺産分割協議が行われるのか
特別代理人がいれば、3000万円相当の住宅と1000万円の銀行預金のすべてをB妻が相続するという形で遺産分割協議を進めてよいとは限りません。
特別代理人は、C子、D子の利益を守るための代理人ですから、C子、D子に不利な形での遺産分割に対しては異議を主張しなければなりません。
よって、合計4000万円相当の遺産を法定相続分に従って分割するのが原則ということになります。
もっとも、この事例で3000万円相当の住宅を売却して、遺産分割することは現実的な選択とは言えないと思いますので、1000万円の銀行預金だけを500万円ずつ、C子、D子名義に分けるといった分割方法もあるかもしれません。
遺産分割協議がまとまったら、B妻とC子、D子の特別代理人が、遺産分割協議書を作成します。
その際の署名押印も特別代理人がC子、D子に代わって行います。
その他の相続手続が必要な場合も、C子、D子の特別代理人が代わりに行うことになります。
この事例のように、母親と5歳、1歳の子の間であれば、遺産を巡って激しく対立する事態は想定しづらいと思いますが、法律上は、2人の子どもについて特別代理人の選任が必要になります。
特別代理人が必要ない場合
一方で、特別代理人を選任しなくてよい場合もあります。
次のような場合です。
親権者が相続人とならない場合
例えば、AB夫婦にC子(5歳)、D子(1歳)がいたとします。
このうち、C子はBの前夫Eの子だったとします。
Eが交通事故により死亡したために、相続が開始した場合、C子も相続人となります。
もちろん、C子自身がEの親族であるその他の相続人との間で、遺産分割協議を行うことはできませんが、この場合は、AB夫婦がC子の法定代理人として、遺産分割協議に参加することができるため、特別代理人を選任する必要はありません。
親権者が相続放棄した場合
A夫、B妻と夫婦の実子であるC子(5歳)の3人家族だったとして、A夫が亡くなり相続が開始したとしましょう。
B妻が、C子に遺産を集中させたいと考えて、自分自身が家庭裁判所に相続放棄を申し立てたとします。
この場合は、B妻は相続人とならず、C子の法定代理人として活動することができるため、特別代理人の選任は必要ありません。
また、この事例において、A夫が多額の負債を抱えているため、B妻とC子がそろって、相続放棄する必要がある場合も、二人がそろって、相続放棄の手続きをする分には利益相反には当たらないため、特別代理人の選任は必要ありません。
遺産分割協議をせずに法定相続分とおりに相続する場合
A夫、B妻と夫婦の実子であるC子(5歳)の3人家族だったとして、A夫が亡くなり相続が開始したとします。
A夫の主な遺産は、3000万円相当の住宅だけでした。
このような場合において、遺産分割協議を行わず、住宅をB妻とC子が等しい割合で共有する形で相続登記を行うのであれば、特別代理人の選任は必要ありません。