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生命保険は遺留分の対象になる?原則・例外の目安と計算方法をくわしく解説

相続の現場において、生命保険金(死亡保険金)をめぐるトラブルは後を絶ちません。特に問題となるのが、「保険金は、遺留分算定の基礎となる財産に含まれるのか?」という点です。

原則として、生命保険金は遺留分の対象外となります。民法上、受取人固有の財産とみなされるからです。しかし、これには例外が存在し、最高裁判所は「あまりにも不公平な場合は遺留分の計算に含める」と判断しています。

この記事では、相続問題に直面している方や将来の遺留分対策を考えている方に向けて、生命保険と遺留分の関係、最高裁判決が示した判断基準、具体的な計算シミュレーション、そしてトラブル回避のための対策を紹介します。

生命保険で「遺留分」が問題になる理由と請求の仕組み

生命保険は本来、残された家族の生活を守るための大切な制度です。しかし、特定の相続人にだけ多額の保険金が支払われると、他の家族にとっては「自分たちの取り分が少なすぎる!」という不満のタネになりかねません。

このように、生命保険によって相続人間の公平性が大きく崩れた場合に問題となるのが、「遺留分の侵害」です。

遺留分侵害について説明する前に、前提となる法律の枠組みについて簡単に整理しておきます。

最低限の遺産をもらえる権利「遺留分」

遺言書で「長男に全ての財産を譲る」と書かれていたり、多額の保険金が長男に渡ったりしても、残された他の家族には「最低限これだけは遺産をもらえる権利」が法律で保障されています。これを「遺留分」といいます。

遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・子・親)に認められており、原則として本来もらえるはずの遺産の半分(法定相続分の2分の1)を確保する権利があります。

遺留分の計算対象となる財産

「遺留分がいくらあるか」を計算するためには、まず元となる財産の総額(遺留分を算定するための財産の価額)を確定させる必要があります。

民法では、以下の財産を足し合わせたものが計算のベースになると定められています(民法1043条、1044条)。

(1)相続開始の時点で被相続人が持っていた財産(遺言によって特定の相続人に譲られた「遺贈」も含む)から債務を控除した額

(2)相続開始時点からさかのぼって1年以内に行われた「相続人以外」への生前贈与(愛人や知人への贈与など)

(3)相続開始時点からさかのぼって10年以内に行われた「相続人」に対する特別受益にあたる生前贈与(住宅資金や結婚資金の援助など)

※借金がある場合は、これらの合計から差し引きます。

今回のテーマである「生命保険金」は、遺留分の対象には含まれないのが原則ですが、例外的に(3)の特別受益に準じて扱うべきであるという最高裁判例があるので注意しましょう(のちほど解説します)。

物や権利ではなく金銭で解決を求める「遺留分侵害額請求」

自分の遺産が遺留分より少なくなってしまった場合、自分より遺産を多くもらった人(侵害者)に対して「足りない分を返してくれ」と言うことができます。

以前は不動産や株といった現物での返還が原則でしたが、2019年の民法改正により「足りない分を金銭で払ってくれ」と請求するルールに統一されました。これを「遺留分侵害額請求」と呼びます。

【原則】なぜ生命保険は遺留分の対象にならないのか?

現金は遺留分の計算対象になるのに、なぜ生命保険金は原則として対象外となるのでしょうか。

生命保険金は「受取人固有の財産」である

生命保険金は亡くなった人(被相続人)の財産ではなく、保険契約に基づいて受取人が保険会社から直接受け取る権利(固有の財産)です。被相続人が亡くなった瞬間に生命保険の権利が発生し、保険金は受取人のポケットに直接入るわけです。

その結果、以下のルールが適用されます。

・遺産分割協議の対象外: 他の相続人と話し合って分配する必要はありません。

・遺留分の対象外: 原則として遺留分を計算する際の分母(基礎となる財産)に含まれません。

このルールがあることで、生命保険の受取人に指定された人は、他の相続人の同意を得ることなく保険金を受け取ることができます。

相続放棄をしていても受け取れる

生命保険金の「受取人の固有財産である」という性質は非常に強力です。

例えば、被相続人に多額の借金があるために、相続人全員が家庭裁判所で「相続放棄」をしたとします。通常、相続放棄をすれば親の預貯金も不動産も一切受け取れません。

しかし、生命保険金は遺産ではないため、相続放棄をして借金を免れつつ、保険金だけは満額受け取ることができます。

相続税の扱いに注意

生命保険で混乱しやすいのが、税金(相続税)との関係です。

民法(遺産分割・遺留分)では生命保険は遺産ではありませんが、税法(相続税)では、生命保険は「みなし相続財産」と扱われ、課税対象になります。「親が掛けていたお金が子に渡るのだから、実質的には相続財産と同じだ」とみなして課税するわけです(ただし「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります)。

【例外】生命保険が遺留分の対象になるケースとは?

原則に従って「生命保険は遺留分の対象にならない」と考えると、相続人間で不公平な結果を生む場合があります。

例えば、遺産(預貯金)が100万円しかないのに、長男だけに1億円の生命保険金が入るようなケースです。この場合、他の相続人が「法律が決めた原則だから仕方ないか……」と納得するのはかなり難しいでしょう。

この問題に対して最高裁判所は、一定の条件下で保険金を遺留分の計算に含めることを認めました。

「著しい不公平」があると保険金も遺留分の対象となる

かつての実務では「どんなに高額でも保険金は別物」とされてきました。

しかし、最高裁平成16年10月29日決定は、次のような判断基準を示しました。

「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほど著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、死亡保険金請求権は特別受益(被相続人から特定の相続人への特別な利益)に準じて持戻し計算の対象となる」

つまり、特定の相続人が受け取る保険金があまりにも多すぎる場合、他の相続人との公平を考慮して、例外として保険金を遺留分の対象とし、遺産に含めてから計算しなおすことになります。

生命保険を「特別受益」に準じて扱う場合の計算方法

遺留分を計算する際の「基礎となる財産」は以下の式で求めます。

・基礎となる財産 = 相続時の遺産 + 特別受益- 債務

上記最高裁決定が示した例外が適用されると、「特別受益」の部分に保険金額が加算されます。これにより基礎となる財産の総額が増え、結果として他の相続人が請求できる遺留分の額も増えるわけです。

不公平かどうかの判断基準

では、具体的にどのようなケースが「著しい不公平」にあたるのでしょうか?

判例実務では、主に「金額の割合」「人間関係」「保険の加入目的」の3要素を総合的に考慮して判断されますが、最も重視されるのが「遺産総額に対する保険金の割合」です。

遺産総額に対する保険金の割合

ここで言う割合とは、保険金額も含めた遺産総額における保険金額の比率を指します。

平成16年の最高裁決定以降、以下のような裁判例が出ています。保険金の割合と結論の関係に着目してみましょう。

遺留分の対象と認められたケース

・名古屋高裁平成18年3月27日決定

保険金の割合: 約61%

判断: 肯定(遺留分の対象になる)

理由: 遺産総額に比べて保険金(約5200万円)の割合が大きく、相続人間での不公平が著しい。

遺留分の対象と認められなかったケース

・東京高裁平成17年10月27日決定

保険金の割合: 約34%

判断: 否定(遺留分の対象にならない)

理由: 遺産総額の3割程度であれば、是認できないほどの著しい不公平とは言えない。

・大阪高裁平成18年6月8日決定

保険金の割合: 約35%(保険金額は約8300万円と高額)。

判断: 否定(遺留分の対象にならない)

理由: 保険金額自体は高額であるが、全体に対する比率で見れば3割強に留まり、他の事情も考慮すると持ち戻しの対象にはならない。

 

上記以外にも多くの裁判例がありますが、それらを分析すると大まかな目安が見えてきます。

遺産総額に占める保険金額の割合が数%〜30%なら、原則通り遺留分の対象外となるとみて良いでしょう。

しかし、割合が50%〜60%以上に達すると、遺留分の対象となる(持ち戻し計算をする)可能性が高まります。

割合が40〜50%程度にとどまる場合は、金額以外の事情(介護の貢献度や経済状況など)によって判断が分かれるようです。

人間関係(同居の有無や介護等の貢献度)

生命保険が遺留分に含まれるかは、遺産総額における保険金の割合だけで決まるわけではありません。裁判では「なぜその人に保険金を残したのか?」という人間関係もチェックされます。

・遺留分の対象になりにくい例

長年同居して、寝たきりの親を献身的に介護してきた長女が受取人であるような場合、保険金額が大きすぎず、「介護の苦労に報いるための実質的な対価」と判断されれば、著しく不公平とは言えないとされる傾向があります。

・遺留分の対象になりやすい例

実家を出て疎遠だった子供や、介護を全くしていない兄弟が受取人になっているような場合、被相続人との関係性が希薄であり、あえて多額の保険金の受取人にする合理的な理由がないと判断されれば、著しく不公平であるとされる傾向があります。

保険加入の経緯と目的

被相続人がどのような意図で生命保険に入ったかも重要です。

「長男が長女に対して遺留分を主張されないように、現金をすべて保険に変えてしまおう」というように、あからさまな遺留分逃れの意図がある場合は、特別受益として認められる可能性が強くなります。

たとえば、以下のようなケースです。

・余命宣告後の駆け込み加入

医師から癌などで「余命わずか」と宣告された直後に、銀行口座にあった多額の預貯金を解約し、その全額を一時払終身保険(保障期間の保険料を契約時にまとめて支払う生命保険)にあてたような場合です。

これは、純粋に万が一の保障を求めたというよりも、「相続財産(現金)を減らして、遺留分の対象から外そうとした」という意図が明らかであると判断されやすくなります。

・全財産の書き換え

遺言書を作成するのと同時期に、預貯金や不動産を売却した現金をすべて一時払終身保険の保険料に充て、特定の相続人(長男など)だけを受取人に指定した場合なども、他の相続人を排除する意図が強いとみなされるリスクがあります。

このように、「加入した時期」と「財産の移動状況」が、遺留分逃れの意図を判断する材料となります。

ケーススタディ:具体的な計算シミュレーション

理屈だけでは分かりにくいので、具体的な数字を使って、生命保険が遺留分にどう影響するかを計算してみましょう。

【ケース設定】

被相続人: 父(母は既に他界)

相続人: 長男、次男の2名

法定相続分: 各1/2

遺留分率: 全体財産の1/2 × 1/2 = 各1/4

遺産の内容:預貯金2000万円

死亡保険金:保険金額3000万円、受取人は長男

遺言: なし(預貯金は法定相続分で分ける)

このケースで、次男が長男に対して「兄さんは保険金3000万円も受け取って不公平だから、遺留分侵害額を請求する!」と主張する場合、以下のような結論がありえます。

※事例と計算を単純化しています。実際には、特別受益の持ち戻し計算が入ると具体的相続分の算定自体が変わるため、より複雑な計算が必要です。

(パターンA)

長男は長年にわたり父と同居し、体が不自由だった父の介護をしていた等の事情があり、特別受益にはあたらない(遺留分の対象に含まれない)と判断された場合

・遺留分算定の基礎となる財産: 2000万円(預貯金)

・次男の遺留分額: 2000万円 × 1/4 = 500万円

・次男が受け取れる遺産額: 1000万円

次男が受け取れる遺産1000万円は自身の遺留分500万円を超えているため、遺留分侵害額請求はできません。

最終的な取得額は、長男が4000万円(預金1000、保険3000)、次男が1000万円(預金1000)となります。

 

(パターンB)

長男は父親とはまったく疎遠だったのに、受け取れる保険金が大きすぎるため、特別受益に準じて扱う(遺留分の対象に含まれる)と判断された場合

・遺留分算定の基礎となる財産: 2000万円(預貯金)+3000万円(保険金)= 5000万円

・次男の遺留分額: 5000万円 × 1/4 = 1250万円

・次男が受け取れる遺産額:1000万円

次男が受け取れる遺産1000万円は遺留分1250万円よりも250万円足りません。次男は長男に対して250万円の遺留分侵害額請求が可能です。

最終的な取得額は、長男が3750万円(預金1000+保険3000−遺留分侵害額250)、次男が1250万円(預金1000+遺留分侵害額250)となります。

以上の通り、「保険金が遺留分の対象になるか、ならないか」の違いにより、遺留分侵害額請求の可否や金額がかなり変わってしまうことに注意しましょう。

生命保険を活用した賢い遺留分対策

ここまでの内容で「生命保険はリスクがある」と感じた方もいるかもしれませんが、実務上は逆です。生命保険は遺留分対策の効果的なツールとして活用されています。その理由と具体的な方法を解説します。

遺留分侵害額請求の支払いに利用できる

遺留分と相続のトラブルでよくあるのが、「遺産が不動産だけで、預貯金や現金がない」というケースです。

例えば、長男が実家の土地建物を相続したケースで、次男から遺留分として750万円を請求された場合、長男に手持ちの資金がなく、将来現金が入る予定もないのであれば、せっかく相続した実家を売却してお金を作るか、土地建物を担保に借金する必要があります。これを防ぐために生命保険を使います。

保険金額が遺産総額に占める割合が大きくならないように注意しつつ、長男を受取人しておけば、次男からの遺留分侵害額にも対応できます。実家を守りつつ次男にも現金を渡せるため、双方が納得しやすい解決策だといえるでしょう。

財産全体のバランスを調整して遺留分を減らす

長男にできるだけたくさん遺産を残すため、遺産の全額(預貯金)を長男に相続させる遺言書を書いたとします。しかし、兄弟の仲が悪く、不満を抱いた次男が確実に遺留分侵害額請求をするだろうと予想できる場合には、現金をそのまま残すのは得策ではありません。

このようなケースでは、預貯金の一部を生命保険に置き換えて、長男を受取人にしておくのです。

例えば、預貯金が5000万円ある場合、そのまま相続すると5000万円全額が遺留分計算の対象になってしまいます。しかし、3000万円を一時払終身保険(受取人長男)の保険料にまわせば、遺留分計算の対象は残り2000万円になるので、次男の遺留分額そのものを圧縮できる可能性があるわけです。

ただし、すでに説明したように、遺産総額における保険金の割合が「著しく不公平」とならないように調整する必要があります。現金や預貯金を残したくないからといって、多額の保険料を要する一時払終身保険を契約すると、死亡時に支払われる保険金額も多額になるからです。

特定の相続人が受け取る保険金の遺産全体に占める割合が大きくなればなるほど、遺留分の対象になる可能性も強くなるので注意しましょう。

納税資金の確保と非課税枠の活用

みなし相続財産である生命保険には、「500万円 × 法定相続人の数」という相続税上の非課税枠があります。非課税枠の利用は遺留分とは直接関係ありませんが、資産を目減りさせないための方法として効果的です。

現金をそのまま持っていると丸ごと課税対象ですが、保険に変えることで税金を減らし、手元に残るキャッシュ(納税資金や遺留分対策資金)を増やすことができます。

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