遺産分割協議が遅々として進まない場合はどうしたらよいのか
目次
1、遺産分割協議が進まない原因
相続人が複数いる場合は、その相続人(共同相続人)の間で、遺産分割協議を行わなければなりません。
共同相続人は、一般的には、親や兄弟の関係にある人たちでしょう。
兄弟の誰かが既に死亡している場合は、甥や姪が代襲して相続人になることもあります。
不仲な家族や複雑な事情がある場合は、親や兄弟の住所が分からず、連絡が取れないこともあります。
また、甥や姪となると、居場所が分からないことも珍しくないでしょう。
その様な場合でも、居場所が分からない相続人を無視して、遺産分割協議をすることはできません。
戸籍を調べて、戸籍の附票から、住民票上の住所を確認し、手紙を送るなどして、遺産分割協議への参加を促すことになります。
それでも、音信不通の場合は、やはり、遺産分割協議ができず、困ってしまうことになります。
共同相続人全員の居場所が知れている場合でも、共同相続人同士の仲が悪い場合は、遺産分割協議が進まないということもあるでしょう。
特に揉めやすいのは、被相続人(亡くなった人)が再婚しており、前婚の子どもと、後婚の子どもがいるような場合です。
しかも、双方の子どもが面識もない場合もあるでしょう。
そのような場合でも、前婚の子どもも相続人となりますから、双方の子ども同士で協議する必要がありますが、感情的な対立が生じやすいのが実情です。
2、遺産分割協議が進まない場合の対処法
共同相続人が知れているかどうかにより、遺産分割協議が進まない場合に取るべき手段は異なります。
a、共同相続人が行方不明の場合
共同相続人の居場所を探すために、戸籍や住民票を調べたものの行方不明で連絡が取れないこともあるでしょう。
このような場合は、行方不明の共同相続人については、不在者財産管理人という代わりの人を立てて、遺産分割協議を行う方法があります。
具体的には、遺産分割協議を行おうとしている人たちが、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立てを行います。
一般的には、弁護士などが不在者財産管理人に選任されますから、一定の報酬の支払いを求められることになります。
その報酬は、行方不明の共同相続人の法定相続分から賄うという形になります。
こうして選任された不在者財産管理人も交えて、行方が知れている共同相続人の間で、遺産分割協議を進めることができるようになります。
b、共同相続人が全員知れている場合
共同相続人が全員知れている場合は、共同相続人が集まるなどして、遺産分割協議を行なえばよいわけですが、それでも、遺産分割協議が進まないのは、揉めている場合か、そもそも、どのようにして遺産分割をしたらよいのか分からない場合でしょう。
このような場合の第一の解決策として、共同相続人全員又は一部で、弁護士に相談することがあげられます。
相続問題に詳しい弁護士であれば、遺産分割協議が揉めやすいことは承知していますから、共同相続人間の事情を調査したうえで、適切な解決策を提案することができます。
共同相続人の一人や一部の人と、他の共同相続人が対立していて、遺産分割協議にならないという場合も、第三者である弁護士を間に入れることで、遺産分割協議を試みるべきでしょう。
弁護士が入ることで、遺産分割協議が進み、解決に至るというのが理想です。
しかし、弁護士が入っても、共同相続人間の対立が収まらなかったり、弁護士の提案に納得できなかったりして、遺産分割協議が進まないこともあります。
なお、弁護士が共同相続人全員に代わって遺産分割協議書の作成等を代行できるのは、共同相続人の間で対立(紛争)が生じていない場合に限られます。
そのような場合は、家庭裁判所での解決を試みることになります。
具体的には、遺産分割調停や遺産分割審判の申立てを行います。
遺産分割調停では、裁判官や調停委員が共同相続人の間に入って、相続人の範囲、遺産の範囲、遺産の評価、各相続人の取得額、遺産分割の方法とした順番で、当事者から事情を聴き、解決策を探ることになります。
共同相続人が納得した場合は、調停調書が作成され、これに基づいて、相続登記手続などを行うことができるようになります。
遺産分割審判は、法廷での裁判に似た手続きで、当事者の主張に基づき、裁判官が審判を下す形になります。
この場合は、民法に則って法定相続分で遺産分割が行われてしまう可能性が高くなります。
法定相続分での遺産分割で納得できない場合には不向きの手続です。
3、遺産分割協議が進まない場合に行っておくべき相続税の手続き
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内とされています。(相続税法27条)
遺産分割を経た上で、相続税の申告をした場合は、相続税の優遇措置を受けられることになっています。
しかし、遺産分割が未了のままだと、次のような相続税の優遇措置が受けられません。
- ・配偶者の相続税の軽減
- ・小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
- ・特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例
- ・特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例
とはいえ、遺産分割が終わっていないからと言って、相続税の申告をしないでおくわけにはいきません。
そこで、一旦、法定相続分で、あるいは、先に遺産分割を終えた分だけ、相続税の申告を行っておきます。
その際に、「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出」を行っておけば、後で修正申告する際に、上記の特例が受けられるようになります。
さらに、3年経過しても、遺産分割が終わらない場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」を行っておくことで、修正申告の際に、上記の特例が受けられるようになります。
4、遺産分割協議が10年間行われないままだとどうなるか?
2023年(令和5年)4月1日に、改正民法が施行され、遺産分割協議が10年間行われない場合の相続制度が見直されました。
遺産分割協議では、相続人は、それぞれ、特別受益や寄与分の主張をすることができます。
しかし、相続開始から10年を経過した後で、遺産分割協議を行う場合は、特別受益や寄与分の主張ができないことになりました(民法904条の3)。
そのため、特別受益や寄与分の主張をしたいのであれば、相続開始の時から10年を経過する前に、家庭裁判所に遺産分割調停、審判の申立てを行う必要があります。
遺産分割協議が遅々として進まない場合は弁護士にご相談ください
遺産分割協議が遅々として進まない場合は、上記に紹介したこと以外にも、様々な事情があると思います。
相続人だけで話し合っても、解決策は見つけにくいものです。
そんな時は、弁護士が代理人として介入することが、解決の糸口になることもあります。
また、相続問題に詳しい弁護士であれば、遺産分割協議が進まないことも多いことを承知しており、そのための様々な解決策を提案することもできます。
遺産分割協議の早期終了につながりやすいですし、弁護士に任せることで、相続トラブルのストレスも少なくすることもできます。