相続人と相続財産の調査・確定
遺産分割協議を進めるためには、遺産を相続する権利を有する相続人と、相続すべき財産を調査し、確定しなければなりません。
相続人調査の概要と方法
遺産分割協議の決定事項は、すべての相続人の同意が得られなければ法的に無効となってしまいます。
そのため、遺産分割協議の準備として、相続人調査は必須です。
相続人調査とは
相続人調査とは、相続人すべての生存や所在を調査し、確定することをいいます。
相続人は配偶者、子ども、親、兄弟姉妹となりますので、多くのご家庭では把握できるかと存じます。
しかし、ご家族が把握していない認知している子どもがいたり、また本来は相続人にはなり得ない親族と養子縁組を結んでいたりすることもあります。
そのため、遺産分割協議を行うためには、被相続人(亡くなられた方)が生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正腹戸籍謄本を取り寄せて調べる必要があるのです。
相続人調査の方法
相続人調査の中心は、戸籍関係書類の取り寄せです。
一般的な方法は、死亡時の戸籍から過去に遡って順番に戸籍関係書類を取得していく方法です。
戸籍謄本には現在の本籍地のみならず、1つ前の本籍地も記載されています。
1つ前の本籍地を見つけたら、その自治体に除籍謄本や改正腹戸籍謄本を請求します。
被相続人に配偶者も子どもも存在しない場合には、父母や祖父母の戸籍謄本も同様に遡る必要があります。
これだけであればそれほど難しい作業ではありません。
しかし、作られた年代によっては手書きの戸籍で非常に読みにくかったり、本籍地を何度も移している場合には何度も取り寄せなければならなかったりと、手続の煩雑さが伴います。
また遺産分割協議には期限は定められていないものの、相続放棄をするのであれば、自己のために相続の開始があったことを知った日から「3ヶ月以内」にしなければならないと定められています。
相続税の申告期限は10ヶ月です。
したがって戸籍の取り寄せに時間を要してしまうと、期限内に手続きを行うことができず、不利益を被るおそれがあります。
戸籍の種類
現戸籍
現戸籍とは、現在の戸籍です。
戸籍が電子化されて「戸籍謄本」から「戸籍全部事項証明書」に名前が変わりました。
改製原戸籍
戸籍はこれまでに5回、様式が変更されました。
様式が変更される前の戸籍を改製原戸籍といいます。
被相続人の戸籍謄本を集める場合には、現戸籍以外は改製原戸籍になるケースが多い傾向です。
除籍
掲載されている人が結婚や転籍、死亡などによって誰も居なくなった戸籍を、「除籍」と言います。
除籍はすでに閉鎖された戸籍でありますが、閉鎖後も150年間は保存されます。
ただし戦争や災害などで焼失・紛失した場合はその限りではありません。
相続財産の調査
相続財産の調査とは、被相続人が保有する財産を明らかにし、相続する財産を確定させる作業のことをいいます。
近しい家族であっても、被相続人が保有する預貯金や有価証券、不動産や借金、保証債務などを全て把握することは難しいものです。
とくに借金や保証債務は家族に告げていないことが少なくありません。
相続財産調査を行うべき理由
遺産分割協議を進める前に、相続財産を調査する理由は以下の通りです。
【相続財産の調査が必須である理由】
- ・遺産分割協議がスムーズに進む
- ・相続税の申告漏れを防ぐことができる
- ・正確な情報に基づいて相続放棄を判断することができる
相続財産を正確に把握することが、円滑かつ正確な遺産分割協議につながります。
遺産分割協議に着手する前に、必ずすべての相続財産を洗い出してリストアップしておきましょう。
相続財産を調査する方法
相続財産の調査は保有する財産の種類によってその方法が異なります。
とはいえ「どんな財産を保有しているのか全貌を把握できていない」というケースもあろうかと存じます。
ここでは代表的な財産の調査方法を解説します。
金融資産
預貯金や有価証券については、自宅や会社などに保管されている銀行通帳やカードを確認してみましょう。
インターネット銀行の場合は、被相続人のWEBブラウザの閲覧履歴やお気に入り登録から、当該銀行を絞り込むことができます。
株式や社債といった有価証券については、定期的に企業から株主総会の招集通知等が送付されますので、保存されている郵送物を確認してみましょう。
インターネットの証券会社で株式等を購入している場合は、ブラウザやアプリで保有証券を確認できます。
ただし預貯金や有価証券をネット銀行やインターネット証券に預け入れている場合は、パソコンやスマートフォンのパスワードを解除してログインする必要があります。
預け入れている銀行や証券会社がわからない、ネット金融機関のパスワード等がわからない場合は、各金融機関に「残高証明書」の発行を依頼する必要があります。
残高証明書の発行を依頼できるのは相続人や遺言執行者等です。
残高証明書を発行してもらうためには以下の書類が必要となります。
- ・被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本
- ・依頼者が相続人等であることがわかる戸籍謄本
- ・依頼者の実印と印鑑証明書
生命保険
生命保険の加入については、生命保険の証書を確認してみましょう。
証書が見当たらない場合はどこの保険会社で加入していたかがわかりません。
その場合は生命保険料控除やご契約内容のお知らせといった保険会社から送付される書類を探してみましょう。
給与所得者であれば、会社の総務・人事担当者に「年末調整の際に保険料控除を受けてないか」と尋ねてみると加入保険会社がわかる可能性があります。
こういった方法でも生命保険の加入の有無がわからない場合は、自宅にある生命保険会社のノベルティをチェックしてみましょう。
カレンダーやクリアファイルなど、生命保険会社の名前が記載されているものがあれば、そこで生命保険に加入している可能性があります。
加入している生命保険会社がわかった、もしくは見当が付いたという場合は以下の書類を用意して生命保険会社に契約の有無を照会します。
- ・被相続人が死亡していることがわかる書類(戸籍謄本や死亡診断書)
- ・被相続人と照会する方の関係がわかる書類(戸籍謄本)
- ・照会する方の本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証)
ご自宅や会社等に生命保険会社の痕跡がまったくないものの、生命保険に加入している可能性がある場合は、「生命保険契約照会制度」の利用を検討しましょう。
この制度は生命保険協会が行っているもので、所定の書類を提出し、3000円の利用料金を支払うことで保険会社ごとの保険契約の有無が確認できます。
https://www.seiho.or.jp/contact/inquiry/decease/
不動産
不動産の保有については、市区町村から送付される固定資産税の納税通知書を確認しましょう。
納税通知書が見当たらない場合には市区町村役場で固定資産台帳の写しを確認することで、保有する不動産の有無や所在がわかります。
債務(借金や未払い金)
金融機関や消費者金融からの借入、商品代金やサービス等の未払い金、クレジットカードの未払い金や、未払いの税金なども相続財産です。
また被相続人が保証人や連帯保証人になっている場合は、それらも相続財産となります。
借入金や未払い金についての書類等は自宅に残されていないケースがありますが、それほど時間をおかずに各金融機関や役所から督促状が届きます。
他の相続財産と比較すればその把握は難しくはありません。
1ヶ月から2ヶ月ほどの間にすべての債務の督促状が届くケースが多いでしょう。
ただし保証人や連帯保証人については、債務者本人の支払いが遅延しない限り督促がなされず、その存在に気付きにくいものです。
被相続人が残した書類はくまなく確認しておきましょう。
弁護士に相続人や相続財産の調査および確定を依頼するメリット
先述したように相続人や相続財産の調査には、多くの書類や手続きが必要です。
書類の多さもさることながら、書類を取り寄せる役所の数や、照会をかけなければならない企業の数も膨大になります。
相続放棄や相続税の申告にはそれぞれタイムリミットが定められておりますので、その期間中に相続人と相続財産を確定した上で、遺産分割協議を終えなければなりません。
ここまでの作業を、被相続人を失ったご家族やご親族が行うのは物理的にも難しいものがあります。
弁護士に相続人や相続財産確定の手続きをお任せいただくことで、ご家族ご親族の労力を大幅に軽減できます。
戸籍謄本を取り寄せるところから、すべて弁護士が代行致します。
また弁護士であればこれらの調査と確定に漏れが生じるリスクも低く、遺産分割協議を何度も行う必要もありません。
正確かつ迅速な相続人&相続財産の確定をご希望されている方は、ぜひ当事務所までご相談ください。