被相続人は母親、相続人は長女(依頼者)、長男及び二女です。被相続人の特定の財産について、長女である依頼者に相続させる旨の公正証書遺言が存在しました。また、生前、被相続人の預貯金口座は、依頼者が管理していました。
被相続人の死後、弁護士を通じて、共同相続人である長男と二女から通知書が届きました。その内容は、前記公正証書遺言が遺留分を侵害するものであるから遺留分侵害額請求をするとともに、生前の預貯金の引出しについて、被相続人の承諾がなく引き出されたものであり、不当利得に基づき返還すべきであるという内容でした。
依頼者は対応に困り、ご相談を頂きました。
長男及び二女からは、依頼者が被相続人名義の預貯金を管理していた際の数多の引出しについて、被相続人の承諾がないまま勝手に引き出したのではないかという疑いを持たれていました。そのため、これらの引出しが、被相続人に関する必要経費であったことを説明しました。すなわち、被相続人が入所していた介護付き有料老人ホームの施設利用料、入院費、投薬代、施設入所に係る諸雑費、日用品費などのために引き出したもの、言い換えれば、被相続人の承諾の下に引き出したものであり、不当利得ではないことの説明を尽くしました。
これに対し、共同相続人である長男と二女は、依頼者側の説明の一部は認めたものの、それ以外は説明として足りないとして、説明の足りない部分は全て不当利得であるとして、一人当たり1000万円を超える請求をしました。
これを受け、当方としてはとても受け容れられない金額であったため、民事訴訟もやむを得ないと判断し、その旨を長男及び二女の代理人に伝えました。
そうしたところ、ある程度日が経ってから、長男及び二女の代理人から改めて連絡があり、被相続人の承諾なく引き出したという主張を大幅に譲歩する形での提案がなされました。
これを受け、先方からの提示に理解を示しつつ、主張を補足した上で、対案を提示しました。その対案は、先方の当初請求額(一人当たり1000万円超え)の10分の1程度の金額でした。
その内容を先方が受け容れたため、民事訴訟に至ることなく、合意が成立しました。
ご依頼を頂いてから示談が成立するまで、9か月弱での解決となりました。
「被相続人が入所していた介護付き有料老人ホームの施設利用料、入院費、投薬代、施設入所に係る諸雑費、日用品費などのために引き出したもの」という点について、請求書や領収書などの資料の量が多かったため、それをまとめ、先方に説明するまでに相当の時間を要しました。
本件が訴訟になった場合、請求金額が大きく、先方から指摘された引出し行為の数も多かったことなどから、紛争が長期化することも予想されましたが、訴訟に至らず、比較的早期解決となって安堵しました。