将来介護費とは?計算方法や基準について解説します
交通事故で重い後遺障害が残り、将来にわたって介護が必要になった場合には、加害者側に「将来介護費」を請求できる可能性があります。
将来介護費とは将来にわたる介護費用のことで基本的な計算方法は「1日あたりの介護費用×365日×平均余命に対応するライプニッツ係数」とされています。
ただし、計算が複雑で、日額が家族が介護する場合と、専門の介護サービスを利用する場合で異なりますし、介護が必要な期間や障害の程度、将来の介護体制によっても、認められる金額が変わります。
この記事では、将来介護費の計算方法や認定基準、症状固定との関係、請求するときのポイントについて解説します。被害者本人と家族の生活を支える賠償金を適切に受け取るために、必要な知識を確認しましょう。
目次
将来介護費とは?
将来介護費は、交通事故による後遺障害のために、症状固定後も介護を受ける必要がある場合の介護費用です。まずは、どのような損害を補償するものなのかを確認しましょう。
将来にわたって介護が必要になる場合の損害賠償金
交通事故によって身体や精神の機能に重い障害が残ることがあります。場合によっては、食事や入浴、排せつ、着替えなどを1人で行うことが困難になることもあります。こうした日常生活を支えるために、将来にわたって必要となる介護の費用が将来介護費です。
将来介護費は、後遺障害慰謝料や逸失利益とは補償する内容が異なります。それぞれの要件を満たせば併せて請求できるケースもあります。
| 項目 | 補償する内容 |
| 将来介護費 | 症状固定後に介護が必要になった場合にかかる費用 |
| 後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料 |
| 後遺障害逸失利益 | 後遺障害によって働く能力が低下し、将来得られなくなると考えられる収入 |
将来介護費用はどう計算する?
将来介護費用を計算するには、介護費の日額と介護が必要になる期間がポイントになります。将来介護費をどのように算定するのか見ていきましょう。
将来介護費用の計算方法
毎日同じ日額の介護が、生涯にわたって必要になると想定した場合、基本的には次の式で計算します。
将来介護費=1日あたりの介護費用(日額)×365日×平均余命に対応するライプニッツ係数
計算をする際には以下について確認しましょう。
・介護費の日額:介護の内容、必要な時間、近親者介護・職業介護の別などから算定する
・介護期間:生涯にわたる介護が必要な場合、原則として平均余命を基礎にする
・ライプニッツ係数:介護期間と適用利率に対応する数値を使用する
例えば、計算方法を説明するため、介護費の日額を8,000円、介護期間を30年、適用利率を年3%と仮定します。30年に対応するライプニッツ係数を19.6004とした場合、計算結果は以下のとおりです。
8,000円×365日×19.6004=5,723万3,168円
上記の計算式と金額は仮定の条件のものですが、計算式の基本はこのようになります。
ライプニッツ係数とは?
ライプニッツ係数とは、将来の損害賠償金を一括で受け取る際に、中間利息を控除するための数値のことです。少し解りにくいかもしれませんが、将来介護費の計算をする場合には重要な数字となります。
このライプニッツ係数は、対象期間と適用する利率によって異なります。交通事故の場合は、原則として事故時の法定利率となります。
症状固定とは?
症状固定とは、医師が診断するものであり、治療を続けても症状の改善が見込まれない状態(固定)されたことをいいます。交通事故の損害賠償では、治療中の損害と後遺障害に関する損害を整理する上で重要な区切りとなります。
主治医が判断する
症状固定については、治療を担当する主治医によって診断されるものです。けがの状態や治療経過、検査結果、今後の改善の見込みなどを踏まえて総合的に判断します。
つまり、保険会社から「そろそろ治療を終了してください」「次の月から治療費の支払いを打ち切ります」と言われたとしても医師がその判断をしなければ症状固定とは言えません。
まだ、治療による改善が見込まれると医師が判断した場合は、治療継続の必要性や理由を確認しましょう。主治医の意見を踏まえて、保険会社と今後の対応を話し合うことが大切です。
完治ではないもののこれ以上の改善が見込めない
症状固定とは、症状が安定し、一般に認められた治療を続けても、それ以上の改善を期待しにくくなった状態ですので、痛みや麻痺などがすべてなくなって事故前の状態に戻る「完治」とは異なります。
治療やリハビリを続けても重い麻痺が残って、食事や移動に介助が必要な状態であっても症状固定と判断されることがあります。つまり、症状固定になったからといって、日常生活の支援や介護がなくなるというものではないのです。
症状固定の状態で「介護が必要になる」と判断された場合は、将来介護費が問題になってきます。後遺症が残ったり介護が必要になったりしたときは、現在の症状だけでなく、生活上の制限や今後必要な介護について考慮して将来介護費の請求を検討します。
将来介護費の対象と基準
将来介護費が認められるかどうかはケースバイケースです。障害の内容、実際の生活状況、介護の必要性や程度を具体的に判断して計算をします。
ここでは、将来介護費の対象と基準について解説します。
重度障害が対象
将来介護費が問題になる代表的なケースとしては、遷延性意識障害、重度の高次脳機能障害、脊髄損傷による重い麻痺などがあります。自賠責保険の後遺障害等級であれば、介護を要する障害を定めた「別表第一」の1級・2級が中心とされています。
| 後遺障害等級 | 介護に関する基準の概要 |
| 別表第一・第1級 | 神経系統の機能・精神、または胸腹部臓器の機能に著しい障害があり、常に介護を要する |
| 別表第一・第2級 | 神経系統の機能・精神、または胸腹部臓器の機能に著しい障害があり、随時介護を要する |
自賠責保険の支払限度額は、別表第一の1級では4,000万円、2級では3,000万円とされています。ただし、これらは後遺障害に関する自賠責保険が設定している限度額であり、交通事故の加害者に請求できる損害賠償全体の上限というわけではありません。
介護の態様によって基準額が異なる
将来介護費の日額は、誰が、どこで、どのように介護するかによって変わります。裁判実務で参考とされる基準や算定の考え方は以下のとおりです。
| 介護の態様 | 日額・費用の考え方 |
| 近親者による介護 | 常時介護では日額8,000円を代表的な目安とし、介護内容や負担に応じて検討する |
| 職業付添人・職業介護人による介護 | 必要かつ相当な範囲の実費を基礎とする |
| 施設での介護 | 入所の必要性や施設の料金、サービス内容を踏まえて相当な費用を検討する |
| 近親者と職業介護人による併用 | それぞれの役割や時間帯を整理し、重複の有無を確認して算定する |
この「近親者介護の日額8,000円」はひとつの目安であり、一律の給付額として定められているものではありません。例えば、同じ後遺障害等級でも、1日に数回の介助で足りる場合と、夜間を含めて継続的な対応が必要な場合では負担の程度が違うからです。
そのため、介護時間や作業の内容、必要人数などによって金額が増減することがあります。
随時介護で負担が限られる場合は減額が、特に負担が重い場合は増額が検討されます。
介護サービスを利用する場合は実費全額を基準としますが、だからといって、利用した費用が無条件に認められるわけではありません。必要な時間を超えていないか、料金がサービス内容に見合っているかなど、相当性についても考慮されます。
施設を利用する場合も、月額料金の総額だけで判断せず、介護費・食費・居住費などを分けます。
請求するときのポイント
将来の費用を請求する以上「今後も介護が必要になること」と「その介護に費用がかかること」の両方を説明する必要があります。現在の生活を記録するとともに、将来の介護計画を具体化しておきましょう。
診断書などの客観的な資料
介護が必要な状態を説明するには、まず医療上の裏付けをそろえる必要があります。症状固定の診断、後遺障害診断書や医師の意見書に加え、入院中の看護記録やリハビリの記録も、本人ができる動作とできない動作を把握する資料になります。
・障害の内容と回復の見通し :後遺障害診断書、検査結果、主治医の意見書
・介護が必要な場面と頻度:看護記録、リハビリ記録、介護日誌
・利用するサービスの内容:ケアプラン、介護事業者との契約書
・現在の費用と将来の見込額 :領収書、請求書、見積書、料金表
・介助の具体的な様子:必要に応じた写真や動画
家族が介護をしている場合は、日誌に日付・時間・対応内容を残しておきましょう。「夜間に介護した」とまとめるよりも「体位を変えるために起きた回数」「1回の介助にかかった時間」を記録した方が負担をより具体的に説明できます。
見守りや声かけも、何のために必要だったのかを記録するといいでしょう。本人だけでは服薬を管理できない、調理器具の扱いに危険があるなど、支援がなければどのような問題が生じるかについてもまとめておきましょう。
予定している介護の体制
将来介護費を考える際は「現在の介護を誰が担っているか」に加え「その人がいつまで介護の負担を担えるか」という視点も必要です。
例えば、親が自宅で介護している場合、親自身の加齢や体調の変化によって対応が難しくなることがあります。現在は家族で対応できていても、ずっと同じ体制を続けられるとは限らないのです。
以下のポイントについても整理しましょう。
・家族が介護できる時間帯と仕事や健康状態による制約
・職業介護人に任せる作業とその利用時間
・家族中心の介護から専門サービスへ移行する時期
・施設への入所や退所を予定している場合の見通し
・新たな介護体制で見込まれる費用
このような将来の計画を将来介護費の請求に反映するには、単なる希望にとどまらず、変更が必要になる事情を示すことが重要です。介護を担う家族の年齢や健康状態、利用可能なサービスの見積書などが有効な判断材料になります。
将来介護費の請求は弁護士に相談しましょう
将来介護費の計算方法を理解していても、介護の日額や期間について、保険会社と見解が分かれることがあります。将来介護費は計算も複雑ですし、個別の事情を考慮して請求する場合は、交渉が難航することもあります。
相手方から提示された賠償金で必要な介護を確保できるか不安がある場合は、勢いで合意せずに弁護士へ相談しましょう。
弁護士に相談するメリット
弁護士へ相談すると、被害者の状態と提出資料を踏まえて請求に必要な主張を客観的に整理できます。介護が必要なのに将来介護費が含まれていない場合や、日額の根拠が不明な場合には、どの点を確認してどのような証拠を追加するべきか検討できます。
また、保険会社が現在の家族介護だけを前提としている場合は、将来の職業介護も考慮すべきかについても相談できます。そして、後遺障害等級の認定に疑問があるときには、認定理由と医療資料を照らし合わせた対応も検討できます。
弁護士に交渉を依頼すれば、保険会社への説明や書類の提出を任せられますし、家族が介護と交渉を並行して行う負担を減らすことも可能です。休業損害など、事故後の生活に関連する他の損害も含めて検討できるのも大きなメリットです。
自分ひとりで抱え込むと大きな問題に思えますが、弁護士に依頼することで精神的な負担も軽くなります。
まとめ
将来介護費は、交通事故で後遺障害が残った被害者が、その後も必要な介護を受けるための損害賠償のことです。基本の計算方法は「介護費の日額×365日×平均余命に対応するライプニッツ係数」ですが、適切な算定には介護内容と将来の生活を具体的に繁栄させることが大切です。
家族が介護している場合も請求の対象になり得えますし、3級以下の後遺障害でも介護の実態によっては認められる可能性があります。日額8,000円という目安や認定等級だけで判断せず、本人に必要な支援と、それを担う人の負担を客観的に整理しましょう。
将来介護費を計算する場合には、診断書、介護日誌、サービスの見積書などを準備しておくと、介護の必要性と費用の根拠になります。家族の高齢化による介護体制の変更も見据え、十分な検討を経てから示談することが大切です。請求額や保険会社の説明に疑問がある場合は、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士へ相談しましょう。

