遺産の使い込みとは?遺産の使い込みに気づいた時の3つの対処方法!
「故人の財産を大切に管理する」という親族間の約束は、故人への最後の敬意のあらわれです。
しかし、中には故人の思いを裏切り、遺産を使い込んでしまう人もいます。
では、遺産を使い込まれた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
今回は、遺産の使い込みとは・遺産の使い込みに気づいた時の3つの対処方法について、どこよりもわかりやすくご紹介します。
本記事を読むことで、遺産の使い込みの定義から、遺産の使い込みのケース、さらには法的措置を含む3つの具体的な対処方法まで、分かりやすく解説します。
大切な方の遺産を守るために、ぜひご一読ください。
目次
遺産の使い込みとは何か?
遺産の使い込みとは、被相続人(故人)の遺産(財産)を、その管理を任された人(相続人や遺言執行者など)が、本来の目的や許可なく勝手に使ってしまうことです。
簡単にいうと、遺産を管理する立場にある人が、相続人の同意や遺言の指示なく、または法律に反して、遺産を不正に使用することです。
遺産は本来、亡くなった人のもので、亡くなった後には相続人全員で分けるか、または遺言に従ってその使い道を決定されるべきものです。
そのため例え、遺産の管理者であっても自分勝手に使うことはできません。
被相続人とは、相続に関連する法律用語で、亡くなって財産を遺す人のことです。
遺産を使い込むリスクのある立場の人たち
遺産は、すべての相続人に法律に基づいて公平に分配されるべきものです。
しかし、中には被相続人の財産に特別なアクセス権を持つ人物が、その立場を悪用して遺産を使い込んでしまうことがあります。
こちらでは遺産を使い込むリスクのある人の具体的な立場や理由について解説し、トラブルを未然に防ぐためのヒントを提示します。
❶相続人
相続人とは、被相続人の遺産を受け継ぐ権利のある人たちのことです。
具体的には被相続人の配偶者、子ども、親、兄弟姉妹などが相続人になります。
相続人が遺産を使い込むリスクが発生する理由は、主に被相続人が生前高齢や病気で財産管理が難しくなり、信頼する特定の相続人に財産の管理を任せてしまう場合です。
ところで遺産相続の際、使い込まれたお金は、特定の条件を満たす場合に限り、遺留分の計算に影響する場合があります。
それは被相続人が意図的に特定の相続人にお金を渡した場合です。
その場合、被相続人の意志が働いたか、どうかが関係してきます。
❷遺言執行者
遺言執行者とは、遺言の内容を実行するために、被相続人が遺言書で指定するか、家庭裁判所が選任した人のことです。
具体的には、家族や親しい人、弁護士・司法書士・行政書士・税理士などの法律や財産管理に詳しい人、銀行や信託会社などの法人などが選任されます。
遺言執行者として選任されると、例え相続人であっても遺言執行者が遺言を執行することを妨げることはできません。
遺言執行者が遺産を使い込むリスクが発生する理由は、遺言を実行するため、被相続人の預金口座、不動産、株式などの財産にアクセスできる権限が与えられているからです。
❸相続財産清算人(旧:相続財産管理人)
相続財産清算人とは、被相続人に相続人がいない場合や、相続人が不明な場合に家庭裁判所が選任した人のことです。
主に遺産を管理し、債務の清算や受遺者への分配を行います。
具体的には、弁護士や司法書士などの法律専門家が主に選任され、まれにその他の信頼できる者が家庭裁判所により選任される場合があります。
相続財産清算人が遺産を使い込むリスクが発生する理由は、財産を管理・整理するために被相続人の預金口座、不動産、株式などの財産にアクセスできる権限が与えられているからです。
相続財産清算人の活動に対する監視やチェック体制が不十分な場合、財産の不正利用が見過ごされるリスクが高まります。
❹その他に使い込みの可能性がある人
その他に使い込みの可能性がある人は、相続人以外の親族や親しい知人、同居人やパートナーなどです。
特に、被相続人が高齢で一人暮らしだった場合、身の回りの世話をしていた知人や、内縁の配偶者が財産を管理していた場合に、遺産の使い込みが発生するリスクが高まります。
ちなみにこれらの人々には法的に遺産の相続権はありません。
遺産の使い込みのケース
「遺産の使い込み」は、被相続人が残した大切な財産が、一部の相続人や関係者によって不当に私的利用される行為です。
ただし一口に使い込みといっても、その手口や状況は多岐にわたります。
こちらでは「遺産の使い込み」に関して、被相続人が存命中に起こる「財産の不正使用」についてご紹介します。
その理由は、被相続人が存命中は口座へのアクセスがしやすく、『財産の不正使用』が起こりやすいからです。
逆に死亡後に起こる『遺産の使い込み』は口座凍結や手続きの制限により困難になる可能性が高くなります。
そのため本章では「遺産の使い込み」を「財産の不正使用」として解説させていただきます。
❶預貯金の不正使用のケース
預貯金の不正使用とは、被相続人が生前に預貯金の管理を委任した人が、本人の許可なく勝手にその預貯金を使用してしまうことです。
例をあげると、父親が存命中に預貯金の管理を委任された人が、父親の同意を得ず、または判断能力低下を悪用してキャッシュカードやネットバンキングで預金を引き出し、生活費や借金の返済に充てるケースです。
❷不動産の不正売却のケース
不動産の不正売却とは、被相続人が生前に所有する不動産(土地、建物、マンションなど)の管理を委任された人が、本人の許可なく不正な手段で勝手に売り、その代金を自分のために使用してしまうことです。
例をあげると、父親が存命中に実家の土地と家(時価2000万円)の管理を委任された人が、父親の同意を得ず、または判断能力低下を悪用して偽造書類などの不正な手段でその不動産を売却し、売却代金2000万円を自分の生活費に使用するケースです。
❸株式の不正売却のケース
株式の不正売却とは、被相続人が生前に所有していた株式(上場企業の株や非上場企業の株など)の管理を委任された人が、本人の許可なく不正な手段で勝手に売り、その売却代金を自分のために使用してしまうことです。
例をあげると、父親が存命中にA社の上場株式(時価500万円)の管理を委任された人が、父親の同意を得ず、または判断能力低下を悪用して証券口座に不正にアクセスし、株式をすべて売却後、売却代金500万円を自分の生活費や投資に使用するケースです。
❹貴重品や動産の不正売却・処分のケース
貴重品や動産の不正売却・処分とは、被相続人が生前に所有していた高価な物品や動産(宝石、時計、絵画、車など)の管理を委任された人が、本人の許可なく不正な手段で勝手に売ったり処分したりして、その代金を自分のために使用してしまうことです。
例をあげると、父親が存命中に高級腕時計(時価300万円)と絵画(時価200万円)の管理を委任された人が、父親の同意を得ず、または判断能力低下を悪用して時計と絵画をオークションで不正に売却し、売却代金500万円を自分のために使用するケースです。
❺財産から生じた利息や配当金の不正流用のケース
財産から生じた利息や配当金の不正流用とは、被相続人が生前に所有する財産(預金や株式など)から発生する利息や配当金を、管理を委任された人が、本人の許可なく不正な手段で勝手に自分のために使用してしまうことです。
例をあげると、父親が存命中に銀行の定期預金1000万円(年利2%、年間20万円の利息)の管理を委任された人が、父親の同意を得ず、または判断能力低下を悪用してキャッシュカードやネットバンキングで毎年振り込まれる利息20万円を引き出し、自分の生活費に使用するケースです。
ところで被相続人が所有していた財産は、被相続人が生前であれば、被相続人の委任または同意を得た管理を任された人が、銀行口座や証券口座へアクセスしたり、不動産の名義変更を行うことができます。
しかし、被相続人が亡くなった後は、銀行口座・証券口座は凍結され、不動産の名義変更はすぐにはできません。
相続手続きを経て、初めて相続人への名義変更が可能となります。
そのため、被相続人の財産の不正使用は、生存中に管理を委任された人が銀行口座や証券口座へアクセスしやすい状況で発生する可能性があり、死亡後には口座凍結や名義変更の制限により不正なアクセスが困難になる場合があります。
また遺産の使い込みが疑われる事例は多く、その対応にはポイントを押さえることが重要です。
使い込まれた遺産を回収するための3つの条件
被相続人が残した財産を不正に使い込まれてしまった場合、泣き寝入りするしかないと諦めてしまう人も少なくありません。
しかし、使い込まれた遺産を取り戻すための方法は存在します。
ただし、そのためにはいくつかの条件を満たす必要があります。
こちらでは使い込まれた遺産を回収できる3つの条件についてご紹介します。
❶使い込みが証明できる客観性の高い証拠
1つ目の条件は使い込みが証明できる客観性の高い証拠があることです。
被相続人の預金口座から不審な出金があった場合、銀行の取引履歴は有力な証拠となります。
また、被相続人の財産で購入した高額な商品の領収書や、使い込みを認めるようなメールや書面のやり取りなども使い込みの事実を裏付ける重要な証拠です。
証拠が具体的で裁判所が認めやすいものであるほど、使い込まれた遺産の回収の可能性が高くなります。
❷時効成立前である
2つ目の条件は時効成立前であることです。
遺産の使い込みに対する請求権には時効があります。
こちらでは遺産の使い込みに関係する「不法行為に基づく損害賠償請求権」と「不当利得返還請求権」のそれぞれの時効についてご紹介します。
ちなみに時効とは、時間が経つことで法律上の権利や責任が消える仕組みのことです。
1⃣不法行為に基づく損害賠償請求権の時効について
不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、被害者が「損害」と「加害者」を知った時点から3年以内に権利行使が必要です。
ただし、遺産の使い込みが起こった時点から20年が経過すると、除斥期間を迎え、どんな状況であっても請求することができなくなります。
2⃣不当利得返還請求権の時効について
不当利得返還請求権の時効は、使い込みに気づいてから5年(主観的起算点)、あるいは使い込みが行われてから10年(客観的起算点)のいずれかで時効が成立します。
❸相手方に回収できるだけの資産がある
3つ目の条件は相手方に回収できるだけの資産があることです。
相手方がそもそも遺産を使い込んで、手元に資産を持ってない場合回収は困難になります。
訴訟を検討中であれば、相手方の財産状況(不動産、預金、給与など)を事前に調査し、回収の可能性を確認してから訴訟をした方が良いでしょう。
遺産の使い込みに気づいた時の対処方法
被相続人が残してくれた大切な財産が、見知らぬ人ではなく、相続人などの身内によって勝手に使い込まれていたと知った時のショックは計り知れません。
しかし、感情に任せて行動すると、事態をさらに悪化させてしまう可能性があります。
遺産の使い込みに気づいた際は、冷静かつ適切な手順を踏むことが何よりも重要です。
こちらでは遺産の使い込みに気づいた時の対処方法について解説します。
❶当事者同士による話し合い
当事者同士による話し合いとは、遺産を勝手に使い込んだ相続人と他の相続人が直接会って話し合い、問題を解決することです。
進め方は、使い込みの証拠(銀行の取引明細や領収書など)を集め、使い込み金額を把握し、話し合いの場を設け、使い込みの事実を認めさせ、返還に向けて話し合い、合意できれば公正証書や合意書を作成し、遺産の返還を目指す取り決めを行います。
相手が話し合いに応じない、合意できないなど進展がない場合には、次の段階である遺産分割調停に進みます。
❷遺産分割調停
遺産分割調停とは、家庭裁判所で、遺産の分け方を解決するための話し合いを、調停委員を交えて行うことです。
進め方は家庭裁判所へ遺産分割調停を申立て、必要書類(戸籍謄本、遺産の資料など)や証拠を準備して、裁判所の調停委員を間に入れ相続人全員で話し合います。
調停の当事者全員が合意すると、調停調書が作成されます。
調停調書には法的効力があり、その内容を守らない場合は強制執行の対象となることもあるので注意が必要です。
合意ができない場合は、次の段階である遺産分割審判に自動的に進みます。
ただし遺産分割審判は相続人同士での遺産の分け方を決めるだけの審判なので、遺産の使い込みを回収するには、別に民事で損害賠償請求・不当利得返還請求を行う必要があります。
❸損害賠償請求・不当利得返還請求を行う
遺産の使い込みを回収するには別に民事裁判が必要になります。
具体的には損害賠償請求と不当利得返還請求のいずれかです。
損害賠償請求とは、使い込みをした相続人に対し、不法行為による損害の補償を求める請求のことです。
不当利得返還請求とは、不当に得た利益に関して返還を求める請求のことです。
進め方は使い込みの事実を証明する証拠(通帳のコピー、引き出し記録、不動産の売却記録など)を集め、使い込んだ相手に、返還を求める書面(内容証明郵便)を送り、返還に応じなかった場合、地方裁判所か簡易裁判所のいずれかに訴訟を起こします。
勝訴すれば、相手に返還や賠償を命じる判決が出ます。
遺産の使い込みに関する最新の法改正
遺産の使い込みに関する最新の法改正は、2018年の相続法改正(2019年7月1日施行)による民法906条の2について解説します。
民法改正(相続法改正)による民法906条の2とは、遺産に属する財産(預貯金など)が遺産分割前に処分された場合、共同相続人全員の同意があれば、その処分された財産を遺産分割時に存在するものとみなして分割手続きを進めることができるということです。
また処分を行った相続人以外の他の相続人全員が同意すれば、処分した相続人の同意がなくても、処分された財産を遺産分割の対象に含めることが可能であることです。
この法改正によって、遺産分割前に処分された遺産の使い込みを、遺産分割手続きにおいて調整することが可能になりました。
遺産の使い込みに関するトピックス
こちらでは遺産の使い込みについて500万円の回収ができたケースについてご紹介します。
長期入院中の父親が亡くなり、父親名義の預貯金の調査をしたところ、生前に多額の出金(財産の不正使用)があったことが判明します。
ところが当時父親は入院中で、意識もほとんどなかったことから多額の金銭を使える状況ではありませんでした。
生前に父親の財産を管理していたのは長男だったので、使途の説明を求めますが、父親のために使ったと述べるばかりで、使途や領収書の公開は一切行いませんでした。
悩んだあげく、長男以外の相続人は弁護士に依頼します。
弁護士を通して、長男に対して地方裁判所に不当利得返還請求訴訟を提起しました。
裁判所に不当利得返還請求が認められ、700万円の請求額に対し、正当な使途が証明された金額を除いた500万円を回収することに成功しました。
まとめ
今回は、遺産の使い込みとは・遺産の使い込みに気づいた時の3つの対処方法についてご紹介しました。
遺産の使い込みは、被相続人の財産が不正に利用されるだけでなく、家族・親族間の信頼関係を破壊する深刻な問題です。
しかし、泣き寝入りする必要はありません。
とはいえ、相手が同じ相続人である場合、使い込まれた遺産を取り戻すことは簡単ではありません。
その場合、弁護士などの専門家に相談してみることをおすすめします。
弁護士に相談することで次の3つのメリットを得ることができます。
・精神的な安心感
・遺産回収に向けた具体的な戦略の策定
・裁判になった場合の手続きの代行
もし現在遺産の使い込みに関する疑いがある場合には、ぜひ京浜蒲田法律事務所に相談することをおすすめします。