遺留分侵害額請求の調停・訴訟
目次
遺留分侵害額請求審判は存在する?
遺留分侵害額請求は、裁判手続きによらなければならないわけではなく、遺留分を侵害された人が、自分自身で、遺留分を侵害している人に対して請求することもできます。
自分自身での交渉では埒が明かない場合は、裁判所の手続を検討することになります。
遺留分侵害額請求に関する裁判所での手続き方法は、次の二つがあります。
2、遺留分侵害額請求訴訟
実は、「遺留分侵害額請求審判」という制度はありません。
審判とは、家庭裁判所において裁判官が判断を下す手続きです。
相続問題でよく耳にするのが、遺産分割審判でしょう。
家庭裁判所に遺産分割の事案を持ち込む場合、まず、遺産分割調停が行われます。
調停手続では、調停委員などが相続人から事情を聴き、各相続人の意向を踏まえて、解決案の提案や必要な助言を行います。
各当事者が納得すれば、調停が成立しますが、調停不成立となった場合は、自動的に審判手続に移行となり、裁判官が審判を下します。
これを遺産分割審判と言います。
つまり、遺産分割調停の延長として、遺産分割審判が用意されているわけです。
これに対して、遺留分侵害額請求調停を家庭裁判所に持ち込んだ場合は、同じように、調停手続きが行われますが、調停不成立となった場合、審判に移行することはありません。
その後に取りうる手段は、遺留分侵害額請求訴訟のみです。
遺留分侵害額請求調停とは
遺留分侵害額請求調停は、当事者間の協議では話がまとまらないようなケースで利用されます。
中立公平の立場の裁判所が当事者の間に入るため、冷静に話し合いをすることが期待されます。
また、不動産や非上場株式などの評価について争いがある場合は、専門家である不動産鑑定士や公認会計士に家事調停委員として関与してもらうことで、公平な解決を図ることができます。
遺留分侵害額請求調停の流れ
遺留分侵害額の請求調停は、家庭裁判所への申立てを行うことから始まります。
申立てを行うことができるのは、遺留分を侵害された者、つまり、兄弟姉妹以外の相続人です。
その承継人も申立てできます。代襲相続が発生している場合や、相続分の譲受人などです。
申立先は、相手方の住所地の家庭裁判所が原則です。
つまり、遺留分侵害者の住所地です。
ただ、一方にとって、その裁判所が遠すぎる場合は、双方の合意により家庭裁判所を選ぶこともできます。
申立てに必要な費用は収入印紙1200円分と連絡用の郵便切手だけですが、申立てに際しては、戸籍謄本なども準備する必要があるため、実際にはもう少し費用が掛かります。
具体的には次の様な添付書類を準備する必要があります。
- ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・相続人全員の戸籍謄本
- ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合は、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
- ・遺産に関する証明書として、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書、有価証券写し、債務の額に関する資料等
遺留分侵害額請求調停の申立時に注意すべきこと
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければなりません(民法1048条)。
家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停の申立を行っただけでは、権利行使したことにはなりません。
そのため、遺留分侵害額請求調停の申立てとは別に、相手方に対して、遺留分侵害額請求を行う旨の通知を内容証明郵便等の方法により到達させる必要があります。
これを忘れてしまうと1年の時効が経過してしまう可能性が高くなりますので、十分注意してください。
遺留分侵害額請求調停期日の流れ
東京家庭裁判所類型別審理モデル検討委員会「遺留分侵害額請求進行モデルについて」によると、調停期日の流れはおおむね次のようになります。
第3、4回調停期日……3回目までには財産評価についての目途をたてる
第5回調停期日……財産評価を確定し、解決方法の検討へ
第6回調停期日……解決方法の確定支払いの猶予・弁済方法の調整
第7回調停期日……総合調整、和解成立
この流れを経て、調停期日で和解が成立すれば、調停調書が作成されます。
もしも、話し合いがまとまらない場合は、調停不成立ということになり、残された手段は、遺留分侵害額請求訴訟のみとなります。
遺留分侵害額請求訴訟の流れ
遺留分侵害額請求訴訟は、金銭の支払いを求める訴えのため、家庭裁判所ではなく、金額の大きさによって普通裁判所又は簡易裁判所に提起します。
請求額が140万円以下の場合は、簡易裁判所
このような区分で訴えを提起します。
また、訴えを提起する裁判所の管轄も、次の3つから選択できます。
2、被相続人の最後の住所地
3、原告の住所地
被告とは、訴えの相手方、遺留分侵害者です。
原告は訴えを起こした側、遺留分権利者です。
原告の住所地でも訴えを起こせるようになったため、使いやすくなったと言われています。
遺留分侵害額請求訴訟では、原告側で、遺留分の基礎となる財産の内容や金額と、自らの遺留分割合に関する主張や立証を行わなければなりません。
これに対して、被告側は、原告が主張する遺留分侵害額は多すぎるとか、既に消滅時効が完成しているといったような反論を行います。
裁判官は双方の主張を踏まえて、判決を下すこともありますし、妥協点を探り、和解を勧めることもあります。
和解に至らず、判決が出た場合は、原告は判決確定後に、判決文に基づいて、強制執行を行うことができるようになります。
判決に納得できない場合は、判決書の送達を受けた日の翌日から起算して2週間以内に控訴することができます。
遺留分侵害額請求調停を考えているなら弁護士にご相談ください。
遺留分侵害額請求は、必ず弁護士をつけなければならない訳ではなく、ご自身で対応することも可能です。
しかし、遺留分が問題になる事例では、相続人同士の深刻な対立に発展してしまう可能性があります。
また、遺留分侵害額請求は権利行使期間が限られているため、迅速な対応が必要になります。
こうしたことを考えると、ご自身で手続きを進めるよりも、弁護士等の専門家の力を借りた方が、適切な形で早く問題を解決することができます。