養育費不払いに対する対応(履行勧告、履行命令)
1 はじめに
前回のコラム(養育費支払いの現状と取り決め方法)はこちらです。
公正証書や調停調書で約束された養育費の支払いが約束どおりに履行されない場合、養育費の支払いを求める側は、家庭裁判所に対し、履行勧告や履行命令を申し立てる方法があります。
2 履行勧告
履行勧告とは、養育費の支払いを求める人(権利者といいます。)の申出によって、家庭裁判所が養育費の履行状況を調査し、養育費を支払うべき人(義務者といいます。)に対し、養育費を支払うよう勧告する制度です。勧告を受けた義務者が任意に支払うことを期待するものです。
申出は、申出書や、養育費の支払いがなされていないことが分かる資料(預金通帳など)を提出することによって行います。申出書には、支払いのない養育費の金額を正確に記載する必要があります。申出に関する費用はかかりません。
申出を受けた家庭裁判所は、家庭裁判所調査官によって必要な調査をするなどして、義務者が約束どおりの支払いをしていないと認めるときは、義務者に対して養育費を支払うよう勧告します。
ただし、この履行勧告には強制力がなく、義務者が従わなかった場合の罰則もないため、効力が強いとは言えません。
3 履行命令
履行勧告をしても義務者が支払いをしない場合、履行命令という方法もあります。
履行命令とは、権利者の申立てによって、家庭裁判所から義務者に対し、相当の期限を定めて養育費の支払いを命じる制度です。
家庭裁判所は義務者の陳述を聴いた上で、相当と認める場合、履行命令の審判をします。義務者が正当な理由なく履行命令に従わない場合、家庭裁判所によって10万円以下の過料の支払いが命じられることになります。
命令に従わない場合に過料の制裁があるという点で、履行勧告よりは強い効力をもった制度と言えます。その一方で、履行勧告と同じく、履行命令そのものには直接的な強制力はないため、必ずしも効力が強いとは言えません。
4 さいごに
履行勧告や履行命令によっても義務者が養育費の支払いをしない場合、強制執行の方法を考えることになります。この点については、また別の機会にお話ししたいと思います。
その他のコラム
離婚後に親権を取り戻せるのか?親権者の変更が可能なケースについて解説します。
未成年者の子どもがいる場合は、離婚時に親権者を決めて離婚届にも反映させますが、離婚後に親権を取り戻すことも可能です。 ただ、親権の変更は家庭裁判所での調停又は審判が必要で、「親権者を変更すべき事情」がないと認められません。 親権者を変更できるケースやポイント、手続きの流れについて解説します。 離婚時の親権の決め方 2024年(令和6年)の時点では、離婚時の親権は、夫婦の一方に決めなければなりません。 ...
財産分与で控訴するかは慎重に(財産分与における不利益変更禁止の原則の不適用)
1 不利益変更禁止の原則とは? 民事訴訟法304条は、第二審(控訴審)における判決について、「第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、することができる」と規定しています。 民事訴訟では、当事者が申し立てていない事項について判断をすることはできないとされています(民事訴訟法246条。これを処分権主義といいます。)。 この原則に基づき、第二審(控訴審)において審理・判断の対象と...
離婚届の様式見直し -養育費に関する取決めの公正証書化の確認へ-
1 様式見直しの概要 令和3年4月16日、法務大臣は、離婚届の様式を近く見直し、子どもの養育費に関する取決めを公正証書にしたかどうかを確認するチェック欄を追加することを明らかにしました。 これまでの離婚届にも、面会交流及び養育費に関する取決めの有無についてのチェック欄は設けられていました。すなわち、「養育費の分担について取決めをしている」か、「まだ決めていない」のどちらかにチェックをつけるというもの...
離婚の基本的な手続きと必要な書類について
離婚の基本的な形は協議離婚といい、夫婦で話し合って離婚届を提出することがこれに当たります。 ただ、調停離婚や裁判離婚の形で離婚した場合でも、離婚届の提出は必要ですし、離婚届の提出と同時に、または、前後して行うべき手続きに大きな違いはありません。 この記事では、離婚の基本的な手続きと必要な書類を確認します。 1.離婚届の入手方法 離婚の手続きというと離婚届を出すだけと考えている方も多いと思います。 では...
養育費支払いの終期(成年年齢引下げとの関係3)
1 はじめに 前回のコラムに引き続き、成人年齢の引下げによる養育費の終期に関する論点について考えます。 2 民法改正による成人年齢の引下げ後の養育費の支払義務の終期についてどのように考えるべきか? 以前のコラム にあるとおり、養育費支払いの終期は、「子どもが未成熟子から脱した時点」であり、原則として20歳に達した日(の属する月)までと考えられていました。その背景には、子が満20歳に達するまでは未成熟子...