養育費不払いに対する対応(強制執行)
1 はじめに
前回のコラム(履行勧告、履行命令)はこちらです。
今回は、履行勧告や履行命令によっても義務者が養育費の支払いをしない場合、民事執行法上の強制執行についてお話しします。
強制執行の方法としては、主に、不動産執行、動産執行、債権執行があります。
2 不動産執行
不動産執行は、養育費の義務者名義の不動産(土地、建物)がある場合、執行裁判所への申立てによってその不動産を差し押さえ、強制的に不動産を売却して、その代金をもって養育費の支払いに充てる方法です。
もっとも、養育費の未払いが問題となっている状況で、義務者が不動産を所有しているケースは実際上多くありません。
3 動産執行
動産執行は、義務者が有する現金、貴金属、時計、バッグ、家具、家電、機械類等の動産を差し押さえ、強制的に動産を売却して、その代金をもって養育費の支払いに充てる方法です。
一方で、義務者の最低限の生活は保護するという観点から、一定の財産は差し押さえることができないとされています(これを差押禁止財産といいます。)。差押禁止財産の例としては、義務者の生活に欠くことができない衣類・寝具・家具・台所用具・畳・建具、1か月間の生活に必要な食料・燃料、標準的な世帯の生活費として定められた金銭(現行法は66万円)といったものが挙げられています。
このように、義務者の生活必需品や、66万円までの現金については差押禁止財産とされていることから、動産執行によって金銭に換算できる財産というのは実際のところ多くありません。義務者が高級腕時計やブランドバックを持っているようなときに、動産執行の効き目が高まると言えるでしょう。
4 債権執行
債権執行は、義務者が勤務先等に対して有する給与債権・報酬債権、あるいは義務者が金融機関に対して有する預貯金債権を差し押さえて、その債権から養育費の未払い分を取り立てて、その支払いに充てる方法です。
給与債権については、義務者の最低限の生活を維持するという観点から、一定の範囲を超えて差し押さえをすることが禁止されています(これを差押禁止債権といいます。)。
原則的に、給与債権の4分の3は差押えが禁止され、差押えが可能なのは4分の1の範囲となりますが、例外的に、養育費といった扶養義務に関する請求権については、2分の1の範囲まで差押えが可能となっています。
預貯金債権については、給与債権のような一定範囲での差押禁止といった制限はありません。
その一方で、預貯金債権を差し押さえるためには、原則として、義務者名義の預貯金について、金融機関名、さらにはその支店名まで特定する必要があります。そのため、権利者が義務者名義の預貯金情報を知っていればさほど問題はないのですが、預貯金情報を知らない場合、預貯金口座を特定することが困難という壁にぶつかることがあります。
もっとも、メガバンクをはじめとする一定の金融機関については、支店名が分からない場合であっても、所定の要件をみたす場合、必要な手続を取ることにより、義務者名義の預貯金口座の有無、支店名、残高等を回答してもらうことができます(これを全店照会といいます。)。
5 さいごに
預貯金債権について全店照会が可能になったとはいえ、それだけで強制執行を実現するための方法として十分とは言えません。
これを受け、強制執行の実効性を高めるため、民事執行法が改正されました。この点については、また別の機会にお話しします。
その他のコラム
養育費不払いに対する対応(履行勧告、履行命令)
1 はじめに 前回のコラム(養育費支払いの現状と取り決め方法)はこちらです。 公正証書や調停調書で約束された養育費の支払いが約束どおりに履行されない場合、養育費の支払いを求める側は、家庭裁判所に対し、履行勧告や履行命令を申し立てる方法があります。 2 履行勧告 履行勧告とは、養育費の支払いを求める人(権利者といいます。)の申出によって、家庭裁判所が養育費の履行状況を調査し、養...
離婚・不倫の慰謝料請求には消滅時効がある?時効期間・起算点・時効の完成猶予・更新について解説
離婚、不倫、不貞行為の慰謝料請求には3年または20年の消滅時効があります。 消滅時効の期間が過ぎてしまうと慰謝料を請求できなくなるため、期限までに請求する必要があります。 また、時効期間が迫っているため時効を中断する必要がある場合は、弁護士に依頼し、訴訟を提起する等の手続を行いましょう。 離婚、不倫、不貞行為の慰謝料を時効成立前に確実に回収するための方法について解説します。 離婚時に慰謝料請求をするケー...
離婚訴訟で訴えられた! → 慰謝料・財産分与等で訴え返す方法(反訴・予備的反訴)①
1 反訴とは?予備的反訴とは? 反訴とは、原告から起こされた訴訟(本訴と言います。)において、被告が、本訴と関連する請求について、原告に対して起こす訴えのことを言います。文字どおり、被告が原告に対して、反対に訴え返すという状況です。 予備的反訴とは、原告が起こした本訴の認容又は棄却を条件として、予備的に反訴を提起することを言います。 反訴は通常の民事訴訟手続で認められている...
養育費不払いに対する対応(第三者からの情報取得手続)
1 はじめに 前回のコラム(民事執行法上の財産開示手続)はこちらです。 今回は、民事執行法の改正によって創設された第三者からの情報取得手続(改正民事執行法204条以下)についてお話しします。 2 民事執行法改正の背景 公正証書や離婚調停調書で約束した養育費が支払われない場合、権利者としては強制執行を考えることになります。 ですが、これまでの強制執行では、原則的に義務者の...
別居後に預貯金の増減があった場合の財産分与の額は?
1 はじめに 財産分与における基準時の問題は、以前のコラムでお話ししました(詳しくはこちら)。 離婚に先行して夫婦が別居している場合において、別居時点で当事者名義の預貯金が存在するとき、別居時の残高が分与対象となるのが原則です。 その一方で、別居が長期化している場合、別居時と現時点とで預貯金残高が変動(増減)していることもよくあります。その場合、どの時点の残高をもって財産分...
