家族間問題を扱う家事調停に「ウェブ調停」導入へ
1 概要
最高裁判所は、離婚調停や遺産分割調停などの家族間の紛争を扱う家事調停に、インターネット上で手続を進める「ウェブ会議」を導入する方針を固めました。
裁判のIT化の一環で、令和3年のうちに、東京、大阪、名古屋、福岡の4つの家庭裁判所で試行を開始し、その後、他地域の家庭裁判所への拡大も検討するようです。
2 これまでの家事調停
これまでの家事調停は、基本的に、申立てをした家庭裁判所へ現実に赴いて(出頭して)、調停室で調停委員や調査官とやり取りをしながら、相手方との間で合意を模索するというものでした。
家庭裁判所へ現実に出頭する場合、希望すれば集合時間や集合場所について自分と相手方を別にしてくれますが、それでも相手方と顔を合わせたり、ニアミスする可能性がゼロとは言えません。
また、家事調停は、相手方の住所を管轄する家庭裁判所で行うというのが基本ルールであるため、相手方が遠方に住んでいる場合、遠方の家庭裁判所に行くこと自体が負担となります。
この点については、既に「電話会議システム」が導入されており、遠方の家庭裁判所まで行かなくても、代理人弁護士事務所等で、電話(音声の送受信)で手続を進めることが可能です。
もっとも、調停委員の顔を見ながらというものではないため、対面でやり取りする場合と比べて細かなニュアンスが伝えにくいという側面もありました。
3 民事訴訟におけるウェブ会議
家事調停に先立ち、民事訴訟では、裁判のIT化の一環として、既に「ウェブ会議」にて期日が実施されています。
民事訴訟のウェブ会議では、マイクロソフトの「チームズ」というアプリ(事件ごとにビデオ通話やファイル共有を行うことができるもの)を使用して、事件ごとに裁判所・原告・被告でチームを組みます。そして、裁判官及び両当事者の代理人弁護士との間で、映像と音声でやり取りをしながら主張や証拠の整理を行っています。
事前設定作業が必要であったり、通信状況によっては映像が止まったり音声が途切れたりといった特有の問題はありますが、事務所にいながら裁判官や相手方代理人弁護士の顔を見ながら手続を進めることができ、現実に裁判所へ出頭する場合に準じる形で進めることができるという便利さがあります。
4 雑感
家事調停でウェブ会議を導入する場合、どのようなツールを用いて実施するかはまだ明らかでありませんが、民事訴訟におけるチームズを家事調停においても用いる可能性は低くないと思われます。
・現実に家庭裁判所へ出頭しなければならないことによる移動時間、交通費といった負担や、裁判所内やその付近で相手方と会ってしまうかもしれないという負担を回避できること
・電話会議システム(音声のみで映像でのやり取りはなし)では伝えきれなかったニュアンスをウェブ会議では伝え得ることが期待されること
・昨今の新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、必要以上の人の移動・接触を避けること
といった観点から、家事調停にウェブ会議を導入することによって、様々な負担や懸念、リスクの回避に繋がることが期待されます。
その他のコラム
離婚協議の重要性と円満な離婚のためのコツ
離婚する夫婦の大半は、協議離婚と言い、話し合いにより離婚しています。 しかし、離婚はしたものの離婚後に約束していた、養育費を支払ってくれないとか、面会交流を拒否されるといったトラブルが後を絶ちません。 焦って離婚したために、財産分与もしていないこともあります。 こうした離婚にまつわるトラブルを回避するためには、円満な離婚を目指すのが最善です。 この記事では、離婚協議の重要性と円満な離婚のためのコツについて紹介します。 ...
浮気・不倫(不貞行為)の慰謝料の相場はいくら?請求方法も解説
配偶者が浮気・不倫(不貞行為)をしていた場合、された側は、その配偶者と不倫相手に対して慰謝料請求を行うことができます。 慰謝料の相場は50万円から300万円と幅が広く、離婚するか、婚姻関係を継続するかにより大きく異なります。 浮気・不倫(不貞行為)の慰謝料の相場が変動する要因や慰謝料の方法なども解説します。 慰謝料を請求できる不貞行為とは? 配偶者が浮気・不倫した場合は、配偶者及び不倫相手に対して慰謝料...
離婚後に親権を取り戻せるのか?親権者の変更が可能なケースについて解説します。
未成年者の子どもがいる場合は、離婚時に親権者を決めて離婚届にも反映させますが、離婚後に親権を取り戻すことも可能です。 ただ、親権の変更は家庭裁判所での調停又は審判が必要で、「親権者を変更すべき事情」がないと認められません。 親権者を変更できるケースやポイント、手続きの流れについて解説します。 離婚時の親権の決め方 2024年(令和6年)の時点では、離婚時の親権は、夫婦の一方に決めなければなりません。 ...
婚姻費用・養育費算定表で子の年齢区分を2区分としているのはなぜ?
1 はじめに 家庭裁判所では、婚姻費用及び養育費を算定するに当たり、いわゆる算定表が利用されています。 算定表は、夫婦双方の収入状況、子の有無・数・年齢などを参考にして、簡易迅速に婚姻費用及び養育費を算定できるよう提案されたものです。なお、この算定表は、提案から15年以上経過した令和元年12月、家庭の収入や支出の実態等の変化に対応するため、改定されました(これを「改定標準算定方式・算定表」といいます。)。 &nb...
養育費不払いに対する対応(養育費支払いの現状と取り決め方法)
1 養育費支払いの現状 離婚する夫婦に未成熟の子どもがいる場合、子どもの生活費として支払われるものが養育費です。子供を育てていくために多くのお金がいることは明らかであり、養育費は子どもが自立して生活できるようになるまでの大事なお金の問題ということになります。 ところが、厚生労働省の平成28年度全国ひとり親世帯等調査によると、現在養育費を受けている母子家庭は約24%、父子家庭は約3%にとどまっています...
