養育費不払いに対する対応(第三者からの情報取得手続)
1 はじめに
前回のコラム(民事執行法上の財産開示手続)はこちらです。
今回は、民事執行法の改正によって創設された第三者からの情報取得手続(改正民事執行法204条以下)についてお話しします。
2 民事執行法改正の背景
公正証書や離婚調停調書で約束した養育費が支払われない場合、権利者としては強制執行を考えることになります。
ですが、これまでの強制執行では、原則的に義務者の預貯金の内容(金融機関名と支店名)は権利者が特定する必要がありました。また、給与債権を差し押さえようとする場合も、義務者の勤務先(給料支払者)は権利者が特定する必要がありました。
それゆえに、離婚後の義務者の勤務先や預貯金が分からない場合、強制執行をしたくてもできず、泣き寝入りするしかないという事態が起こっていました。
こうした事態を打開するため、令和2年4月1日、改正民事執行法が施行され、新たに第三者からの情報取得手続が運用されることになりました。
3 第三者からの情報取得手続
第三者からの情報取得手続とは、養育費の義務者以外の第三者から、義務者の財産に関する情報を取得できる制度です。
情報を取得できる第三者とは、①登記所、②市区町村・日本年金機構等、③金融機関(銀行、信用金庫、労働金庫、信用協同組合、農業協同組合、証券会社等)です。
①登記所(不動産情報)
登記所に対しては、義務者名義の不動産(土地・建物)がある場合、裁判所の命令により、その不動産の所在地や家屋番号等の情報を取得することができます(改正民事執行法205条)。
ただし、この不動産に係る情報の取得のためには、財産開示手続を申し立てる必要があり、その財産開示手続の期日から3年以内の間に、情報取得の申立てをすることができます。
なお、改正民事執行法は令和2年4月1日から施行されていますが、この登記所からの情報取得については、令和3年5月16日頃から利用できる見込みであるとされています。
②市区町村・日本年金機構等(勤務先・給与情報)
市区町村・日本年金機構等に対しては、裁判所の命令により、義務者に対する給料の支給者(義務者の勤務先)に関する情報を取得することができます(改正民事執行法206条)。
なお、勤務先に関する情報取得の申立てができるのは、養育費や婚姻費用などの扶養に関する請求権か、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を有する者に限られます。
また、①と同様、勤務先に係る情報の取得のためには、財産開示手続を申し立てる必要があり、その財産開示手続の期日から3年以内の間に、情報取得の申立てをすることができます。
③金融機関(預貯金情報、株式・国債情報)
金融機関に対しては、裁判所の命令により、義務者の有する預貯金口座の情報(支店名、口座番号、残高)、義務者名義の上場株式・国債等の銘柄や数等の情報を取得することができます(改正民事執行法207条)。
①及び②と異なり、預貯金等の情報取得を申し立てる場合、財産開示手続を経る必要はありません。
4 さいごに
第三者からの情報取得手続によって、義務者の預貯金情報等が判明した場合でも、それだけで財産差し押さえの効力が及ぶわけではなく、養育費を支払ってもらうためには、別途債権執行等の強制執行手続を取る必要があります。
民事執行は専門的要素が強い分野ですので、対応にお困りの方は当事務所の弁護士にご相談ください。
その他のコラム
特有財産とは何か?共有財産との違い・財産分与を避けるには?
離婚の際に避けて通れない問題が「財産分与」です。 財産分与が適用されると夫婦で築き上げた財産を公平に分けることになります。 ただし夫婦の持つすべての財産が財産分与の対象になるわけではありません。 財産分与の対象にならないのが「特有財産」です。 今回は特有財産とは何か・共有財産との違い・財産分与を避けるにはについてどこよりもわかりやすく解説します。 特有財産とは何か? 特有財産とは...
不倫・浮気の慰謝料の相場はいくら?法的に認められる金額と請求の条件を解説
配偶者が不倫・浮気した場合に請求できる慰謝料の相場は、50万円〜300万円と金額の幅が広いです。 慰謝料請求をするための条件、額が高額になる事例について解説します。 不倫・浮気・不貞行為の慰謝料の相場はいくら? 増額される条件を解説します。 不貞行為があった場合の慰謝料の相場は総額で100万円〜300万円です。 また、不倫相手だけへの慰謝料請求の相場は、50万円〜150万円程度です。 ...
生命保険等の財産分与
1 生命保険や学資保険等は財産分与の対象となるか? 生命保険については結婚前から加入されている方もいれば、結婚を機に加入する方もいらっしゃると思います。 また、子どもが生まれたことを機に将来の学費に備えて学資保険に加入することもあれば、老後の資金として個人年金保険に加入することもあるでしょう。 これら生命保険等が離婚時に財産分与の対象となるか否かについては、貯蓄性があるか否かによって分かれます...
別居後に預貯金の増減があった場合の財産分与の額は?
1 はじめに 財産分与における基準時の問題は、以前のコラムでお話ししました(詳しくはこちら)。 離婚に先行して夫婦が別居している場合において、別居時点で当事者名義の預貯金が存在するとき、別居時の残高が分与対象となるのが原則です。 その一方で、別居が長期化している場合、別居時と現時点とで預貯金残高が変動(増減)していることもよくあります。その場合、どの時点の残高をもって財産分...
2022年(令和4年)年末年始休業のお知らせ
誠に勝手ながら、当事務所は、令和4年12月28日(水)から令和5年1月3日(火)まで年末年始休業となります。 期間中は大変ご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解賜ります様、お願い申し上げます。 なお、メールでのお問い合わせは随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。 ...
