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離婚後に親権を取り戻せるのか?親権者の変更が可能なケースについて解説します。

未成年者の子どもがいる場合は、離婚時に親権者を決めて離婚届にも反映させますが、離婚後に親権を取り戻すことも可能です。
ただ、親権の変更は家庭裁判所での調停又は審判が必要で、「親権者を変更すべき事情」がないと認められません。
親権者を変更できるケースやポイント、手続きの流れについて解説します。
 

離婚時の親権の決め方

2024年(令和6年)の時点では、離婚時の親権は、夫婦の一方に決めなければなりません。
離婚届にも、未成年者の親権者の欄が設けられており、夫婦の間に未成年の子どもがいるにも関わらず、この欄を埋めていない場合は、離婚届は受け付けられません。
もっとも、離婚届に際して、夫婦間で親権について協議を行ったことを示すような文書の提出は求められていないため、一方が勝手に記入して提出しただけでも受け付けられてしまうこともあります。
 
一般的には、離婚時に夫婦間で、慰謝料の請求、財産分与、年金分割、婚姻費用の分担、養育費、面会交流に関する話し合いを行う際に、親権者を決めますが、協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停及び審判を申し立てることもできます。
調停離婚、審判離婚、又は判決離婚となった場合は、離婚届出時に調停調書、審判書謄本(確定証明書付)、判決謄本(確定証明書付)のいずれかを添付します。
 

2024年(令和6年)5月成立の改正民法について

2024年(令和6年)5月に民法等の一部を改正する法律が成立しました。
現行法では、離婚後の親権は単独親権ですが、改正法が施行された後は、父母の一方の「単独親権」と父母双方の「共同親権」のいずれかを選択できるようになります。
共同親権とした場合でも、離婚後の夫婦は別居するのが通常で、子どもも一方の親が監護する点に変わりはありません。
ただ、子どもに関する事項を決定する際は、原則として非監護親である共同親権者の同意も必要になります。
もっとも、すべての事項に関して、共同で決めるのでは都合が悪いこともあるため、
 

  • ・子の利益のため急迫の事情があるとき(DV・虐待からの避難、緊急の場合の医療等)
  • ・監護及び教育に関する日常の行為(子の身の回りの世話等)

 
については、監護親である親権者が単独で決められます。
 
この改正法は、2024年(令和6年)5月の公布から2年以内に施行されることになっています。
この記事では、離婚時に単独親権と決めたことを前提に離婚後に親権を変更する方法について解説します。
 

離婚後、親権者を変更できるのか?

離婚後、親権者を変更することができるのでしょうか?
結論から言うと、離婚後、親権者を変更することが可能です。
離婚の際に、将来、親権者を変更することがある旨の取り決めを交わしていたかどうかは関係ないですし、調停離婚、審判離婚、又は判決離婚といった裁判離婚で、親権者を決めていた場合でも変更可能です。
 

離婚後の親権者変更は調停・審判が原則

離婚後の親権者変更は、父母の協議だけで決めることはできません。
例えば、離婚に際して、公正証書等を作成し、親権者を変更できる場合について取り決めを設けており、その事由が生じた場合でも、その文書を基に当然に親権者の変更を行うことができるわけではありません。
 
離婚後の親権者変更は、家庭裁判所に調停及び審判を申し立てることが必須とされています。
また、調停手続で当事者双方が納得すれば、親権を変更できるとは限らず、「親権者を変更すべき事情」があるかどうかに関する家庭裁判所の調査が行われるのが一般的です。
父母の都合よりも、未成年の子どもにとって親権者を変更することが望ましいかどうかという観点から判断されます。
未成年の子どものために「親権者を変更すべき事情」がないと判断された場合は、父母が望んでいたとしても認められないこともあります。
そのため、離婚後に親権者を変更することは、離婚時に親権を獲得することよりもハードルが高くなると言えます。
 

離婚後の親権者変更が認められるケース

離婚後の親権者変更は、「親権者を変更すべき事情」がある場合のみ認められるのが原則です。
では具体的にどのような場合なのか解説します。
 

子どもが虐待されている場合

現在の親権者の下で、子どもが虐待を受けている場合は、子どもを一刻も早く安全に環境へ移す必要があります。
児童虐待の防止等に関する法律によると、親権者による子どもの虐待(児童虐待)は次の4つに分類されています。
 

身体的虐待
子どもに対して直接的に暴行を加えることです。
性的虐待
子どもにわいせつな行為をしたり、わいせつな行為をさせることです。
ネグレクト
育児放棄、食事を与えない、不衛生な状態で放置する、その他子どものために必要な監護を著しく怠ることです。
心理的虐待
子どもに対する暴言や拒絶的な対応、子どもに著しい心理的外傷を与える言動を行うことです。
直接子どもに向けられたものでなくても、例えば、子どもの見えるところで、継父が子どもの実母に対して虐待を行っている状況も、子どもに対する心理的虐待になります。

 
児童虐待の中で特に多いのが、身体的虐待とネグレクトです。
こうした行為が現在の親権者の下で行われている場合で、親権を持たない親に適切な養育体制が整っていれば、親権者変更が認められる可能性が高いです。
 

現在の親権者が子どもを監護できなくなった場合

現在の親権者が、病気になって寝たっきりの状況にある場合や重度の障害認定を受けて、子どもの親権を行使できない状況になった場合は、子どもの健全な成長等を考慮して、親権者の変更が認められることもあります。
その他、親権者が子どもを残して行方不明になってしまった場合も、家庭裁判所に親権者変更の審判を申し立てることができます。
 

親権者が死亡した場合

単独親権の親権者が死亡した場合は、子どものために未成年後見人を指定しなければなりません。
生存している父母の一方が当然に親権者となるわけではない点に注意しましょう。
この場合、未成年後見人は、まず、親権者が生前に遺言で指定した人が選ばれます。
遺言がなかった場合は、家庭裁判所が選任します。
生存している父母の一方が未成年後見人に指定されれば、親権を得たのと同様の意味がありますが、他の人が未成年後見人に指定される可能性がある場合は、家庭裁判所に親権者変更の審判を申し立てる必要があります。
例えば、親権者である母が亡くなり、母方の祖父母やおじおばが未成年後見人に選ばれそうなケースで、父親が親権を得たい場合です。
 

子どもが親権者の変更を希望している場合

親権者変更調停では、子どもの意向も尊重して、親権者変更の可否を判断します。
ただ、小さい子どもの場合は、単純に好き嫌いだけで、父母のどちらと一緒に暮らしたいか選んでしまうこともあるため、子どもの意向がそのまま反映されるわけではありません。
一方で、中学生程度になれば、様々な状況を判断して親権者を変更してほしいと自分から言えることもあります。
このような場合は、家庭裁判所も子どもの意向も尊重して、親権者変更を認める可能性があります。
おおむね、15歳程度の年齢の子供が親権者変更を希望している場合は、家庭裁判所も子供の意思を尊重して親権者変更を認める傾向があります。
 

離婚後の親権者変更が認められないケース

一般的に父母の都合で、親権者を変更したいと考えているだけでは親権者変更は認められません。
 

親権者が再婚する場合(親権者に交際相手がいる場合)

親権者が再婚しても、子どもとの関係に変化はありません。
親権者を持つ親は、子どもの親であり、親権者であり続けるわけです。
ただ、親権を持たない実親からすると、子どもが継父や継母と同居して、うまく生活できるのか、虐待されるのではないかと不安を感じることもあるかもしれません。
このような場合でも、実際に子どもに対する虐待が生じている状況ならともかく、単に不安だからという理由だけで、親権者変更調停を申し立てても、親権者の変更は認められない可能性が高いです。
 

親権者が面会交流に応じてくれない場合

非監護親からすると子どもとの面会交流を認めてもらう代わりに、相手方に親権と監護権を渡した。
だから、子供との面会ができない等、約束が守られていない場合は、親権者を変更すべきだと考えるかもしれません。
しかし、父母のどちらが親権者になるかということと面会交流の約束にはなんの関係もありません。
面会交流の約束が守られていないからという理由だけでは、親権者の変更は認められない可能性が高いです。
 
なお、面会交流については、家庭裁判所に面会交流調停を申し立てることで解決できることもあります。
 

2024年(令和6年)5月成立の改正民法における親権者変更

2024年(令和6年)5月成立の改正民法では、親権者変更に関する条文が追加されています。
 
子の利益のため必要があると認めるときに、家庭裁判所が親権者を変更することができる点は同じですが、親権者変更に当たって「協議の経過を考慮すること」が明確化されました(改正民法819条8項)。
 
そして、協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するとされています。
 

離婚後の親権変更を成功させるためのポイント

離婚後に親権を取り戻したいと考えている場合は、家庭裁判所に親権者変更調停を申し立てる必要があります。
親権を取り戻したいと考えている側としては、親権者変更調停において次の点を考慮すべきです。
 

調停委員に親権者変更の必要性を理解してもらう

親権者変更調停で話し合いのキーパーソンとなるのは、調停委員です。
親権を取り戻したいと考えている親側は、調停委員に自分が親権者としてふさわしいことを理解して貰う必要があります。
具体的には、
 

  • ・子どもに十分な愛情を注いでおり、子どもとの関係が良好であること。
  • ・子どものために健全な養育環境を用意していること。
  • ・自分が心身ともに健康であること。

 
などです。
そのうえで、現在の養育状況が好ましくないことや親権者の変更を希望する事情を説明します。
 

家庭裁判所調査官の調査

親権者変更調停では、家庭裁判所調査官による調査が行われることがあります。
調査は主に現在子どもが置かれている養育環境に問題がないのかという観点から行われます。
子どもが現在、親権を有している親のもとにいる場合は、よほどひどい状況にない限り、現状維持が望ましいとの判断がなされがちです。
親権者変更を申し立てた親と同居している場合も、その養育環境に問題ないのか、親の都合だけでなく、子どもの福祉の観点から総合的に判断されます。
 

弁護士への相談・依頼も検討する

親権者変更調停は、通常の裁判のように法廷で証拠のやり取りをして白黒つけるのではなく、あくまでも父母双方の協議で親権者変更の可否について話し合うというスタンスです。
そのため、父母のどちらも法律の専門知識を有していなかったとしても、それだけで不利になることはありません。
ただ、親権者変更調停を有利に進めるためには、経験豊富な弁護士の知恵を借りるべき場面もあります。
例えば、子どもを現在の親権者の下から無理やり連れ去ってしまうことは、法的に問題がありますし、親権者変更調停でも不利になることもあります。
また、親権は母親が有利とされていますが、状況によっては、母親の方が不利なこともありますから、弁護士のアドバイスを受けながら、不利な状況の改善を図る必要があります。
 
親権者変更を申し立てる側が弁護士を立てている場合は、親権者変更に必要な要件を理解したうえで、本気で親権者変更を求めていることを調停委員等に印象付けることができますから、その意味で手続きがスムーズになったり、有利になることもあります。
 

離婚後の親権者変更の流れ

離婚後の親権者変更の流れを確認しておきましょう。
 

親権者変更調停を申し立てる

家庭裁判所で「親権者変更調停」を申し立てます。
申立人は子どもの親族(一般的には父又は母)です。
申立先は、相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所のどちらかになります。
申立てに必要な費用は、子ども1人につき収入印紙1200円分です。
その他、文書の郵送に必要な郵便切手の代金もかかります。
申立てに必要な書類は、申立書の他、次の添付書類が一般的に必要になります。
 

  • ・申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • ・相手方の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • ・未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)

 

調停期日における話し合い

申立が受理されると調停期日が指定されるので、その日に家庭裁判所に出頭し、調停委員を介して話し合いを行います。
 

調査官調査

調停期日の合間に、家庭裁判所調査官による調査が行われます。
調査官が両親や子どもから話を聞いたり、家庭訪問するなどして、子どもの福祉の観点から親権者変更が必要なのか調査し、裁判所に報告書を提出します。
調査官の報告は、調停委員の判断や、審判になった場合の裁判官の判断に大きな影響を及ぼします。
 

親権者変更調停成立

調停期日における話し合いと調査官調査の報告を踏まえて、両親が親権者変更に合意した場合は、調停が成立します。
 

親権者変更審判

親権者変更調停が不成立になった場合は、自動的に審判手続が開始されます。
調停における経緯を踏まえたうえで裁判官が一切の事情を考慮して審判を行います。
 

親権者変更の届出

親権者変更が認められた場合は、調停調書の謄本または審判調書の謄本とともに市区町村役場に親権者変更届を提出します。
提出期限は、調停成立や審判確定日から10日以内です。
 

子どもの氏の変更

親権者が変わっても、自動的に子どもの戸籍が親権者の戸籍に移るわけではありませんし、子どもの氏が変わるわけでもありません。
子どもの戸籍を移動させるためには、子の住所地の家庭裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てる必要があります。
 
申立人は子供自身です(子が15歳未満のときはその法定代理人です)。
申立てに必要な費用は、子ども1人につき収入印紙800円分になります。
その他、文書の郵送に必要な郵便切手の代金もかかります。
申立てに必要な書類は、申立書の他、次の添付書類が一般的に必要です。
 

  • ・申立人(子)の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • ・父・母の戸籍謄本(全部事項証明書)(父母の離婚の場合、離婚の記載のあるもの)

 
家庭裁判所の審判は形式的なものです。
家庭裁判所から許可書(審判書謄本)が届いたら、市区町村役場で子の入籍届出を行います。
 

まとめ

離婚後の親権変更は、原則として、家庭裁判所に親権者変更調停を申し立てる必要がある等、様々な手続きを経る必要があります。
また、親権者変更は、「親権者を変更すべき事情」がなければ基本的に認められておらず、ハードルが高いため、悩みを抱える方も少なくありません。
離婚後に親権者変更を考えている方は、ご自身で手続きを進める前に知識や経験の豊富な弁護士に相談し、親権者変更調停を有利に進めるためのアドバイスを受けてください。

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