性生活の異常(セックスレス)
性生活の異常・セックスレスは離婚原因となるか?
性生活の異常(夫婦間の正常な性生活を妨げる事情)としては、性交不能や性交拒否などのセックスレスのほか、懐胎不能、異常性行為、性病などがあります。
性生活の異常については、病気や投薬(薬の副作用)が原因であるほか、一方配偶者の異常な性癖、双方又は一方が性行為を嫌うなどが原因ということもあり、センシティブな問題です。
性生活は、夫婦間の肉体的、精神的な結び付きであり、その重要性から、性生活の異常については、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に関する重要な要素の1つと考えられています。もっとも、性交不能、性交拒否などの性生活の異常が、それだけで直ちに離婚原因に当たるわけではなく、性交拒否が夫婦間の愛情の喪失・不存在を示すようなものであったり、婚姻前に自身が性交不能であることを知っていたにもかかわらず、相手に告げなかったような場合に、離婚原因になりうると考えられます。
性生活の異常と慰謝料請求
性生活の異常をめぐっては、離婚原因に当たるかという問題に併せて、慰謝料の問題が生じることもあります。
これについては、一方配偶者の異常な性的嗜好を強いられた場合、ポルノ雑誌にばかり興味を示して夫婦間の性生活に応じない場合、婚姻前の時点で性交不能(生殖不能)であることを知りながら相手に告げなかった場合など、一方配偶者に婚姻関係破綻の責任があると認められる場合に、慰謝料の責任も生じることになると考えられます。
性生活の異常・セックスレスに関する裁判例
性生活の異常に関する裁判例として、以下のものがあります。
事案は、夫が病気のため睾丸を切除し、担当医から、生殖能力はないが性交渉には大した影響がないという話だったため婚姻に踏み切ったが、約1年半の婚姻同居期間中、夫は一度も性交を遂げることができず、終始性交不能であった(妻の体の一部を撫で回すということが繰り返された)というものです。
最高裁判所は、夫婦の性生活が婚姻の基本となるべき重要事項であることを考えれば、妻が夫との性生活を嫌悪して離婚を決意するに至ったことは無理からぬことであるとして、妻の離婚請求を認めました(最高裁判所昭和37年2月6日判決)。
別の事案は、夫に性的興奮・衝動がなく、婚姻に際して妻に性交不能であることを告げておらず、新婚旅行中も、3年半の同居期間中も性交渉がなかったこと、妻には子供ができない疾患はなかったというものです。裁判所は、婚姻が男女の精神的・肉体的結合であり、そこにおける性関係の重要性に鑑みれば、病気や老齢などの理由から性関係を重視しない当事者間の合意があるような特段の事情のない限り、婚姻後長年にわたり性交渉のないことは、原則として「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるとして、妻からの離婚請求を認めました(京都地裁昭和62年5月12日判決)。