有責配偶者からの離婚請求
有責配偶者からの離婚請求が認められるための3要件
有責配偶者とは、婚姻関係が破綻している場合において、その破綻原因についてもっぱら又は主たる責任がある配偶者のことを言います。
有責性が主張されるケースとしては、身体的暴力(DV)などもありますが、大半は不貞行為です。
例えば、夫が不貞行為をしたことで婚姻関係が破綻したにもかかわらず、夫が妻に離婚請求をした場合、この離婚請求を簡単に認めてしまうと、不貞の被害者である妻は離婚にも応じなければならないことになり、踏んだり蹴ったりの状態となります。
そのため、最高裁判所は、不貞行為などに及んだ有責配偶者からの離婚請求が認められためには、以下の3つの要件を満たさなければならないという立場を採っています。
- ①別居期間が両当事者の年齢・同居期間と対比して相当の長期間に及んでいること
- ②夫婦間に未成熟の子が存在しないこと
- ③離婚を請求された配偶者が、離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がないこと
①相当の長期間
どの程度の期間があれば「相当の長期間」と言えるか、最高裁判所は具体的な期間を明示していません。
同じ別居期間でも同居期間がどの程度かによって別居期間に対する評価は変わることになりますが、有力な見解によれば、別居期間が10年を超える場合、同居期間等との対比をするまでもなく、「相当の長期間」であると判断されることになります。
もっとも、最高裁判所の事案でも、別居期間8年弱で離婚請求を認めたものがあるほか、東京高等裁判所の事案でも、別居期間5年程度で離婚請求を認めたものがあり、「○年以上経過していれば離婚が認められる」と一律に割り切れるものではありません。
最高裁判所は、「別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず、時の経過が当事者双方の諸事情に与える影響も考慮する必要がある」とも述べており、別居期間中に不貞関係を解消したか否か、別居期間中の生活費の支払い状況なども考慮することにより、「相当の長期間」と言えるか判断するとしています。
私見ですが、別居期間が10年以上なくても、5年以上続いているケースにおいて、相手方配偶者に相応の財産給付の約束をしているといった事情が認められる場合、「相当の長期間」と認められる可能性は相対的に高まると考えられます。
逆に別居期間が5年未満の場合、「相当の長期間」と認められず、離婚請求が否定される可能性が高まると考えられます。
②未成熟子の不存在
「未成熟子」は「未成年者」と同じ意味ではなく、自身で働いて収入を得て、経済的に自立するものとしていまだ期待されていない年齢にある者を意味します。
そのため、夫婦間に未成年の子がいる場合であっても、その子が既に就職して経済的に自立しうる程度の収入を得ている場合、ここでいう「未成熟子」には当たりません。逆に、夫婦間の子が成人していても、持病や学業などの事情で働くことができない場合、「未成熟子」に当たると判断されることもあります。
最高裁判所は、夫婦の間に未成熟の子がいる場合であっても、「その一事をもって離婚請求を排斥すべきものではなく、諸般の事情を総合的に考慮して離婚請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときには、右請求を認容することができる」と述べています。その上で、高校2年生の子がいる事案において、3歳の時から一貫して妻が育て、夫は生活費の送金を続けてきたことなどの事情を考慮し、未成熟子の存在が離婚請求の妨げにならないと判断しました(最高裁判所平成6年2月8日判決)。
③相手方配偶者が苛酷な状態に置かれないこと
離婚によって相手方配偶者が苛酷な状態に置かれないという点については、有責配偶者が相手方配偶者に対して相応の生活費(婚姻費用)を払っていたかどうか、離婚するに当たり、有責配偶者から相手方配偶者に対し、苛酷にならない程度の離婚給付(経済的な補償)が提示されているかなどの経済的な事情が判断の中心となります。離婚後に起こりうる夫婦間の経済的な不公平(格差)を是正するに足りるだけの財産給付がなされることが必要となります。
もっとも、経済的な事情以外にも、相手方配偶者の生活、収入状況、婚姻関係修復のための具体的な行動の有無、有責性の程度なども要素にして判断されます。
さいごに
以上のとおり、有責配偶者からの離婚請求については、別居期間が10年未満であっても必要十分な財産給付がなされていれば離婚請求が認められることもあり、その反面、財産給付をどれだけ手厚いものにしても、子供がまだ幼いために離婚請求が否定されることもあり、正確な見通しを立てることが難しい問題です。
京浜蒲田法律事務所では、有責配偶者側(原告側)と離婚を求められる側(被告側)のどちらのお手伝いもさせて頂いた経験があります。それだけでなく、原告代理人として主張・立証を尽くし、離婚請求が認められた例もございますので、お悩みの方は当事務所にご相談ください。