相続税の控除と計算
目次
相続税の申告は10か月以内
相続が発生した時に気にしなければならないことの一つとして、相続税の申告・納税があげられます。
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(一般的には、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行わなければなりません。
相続の承認期間(自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内)よりは長いとはいえ、被相続人が亡くなった後は、何かとバタバタしがちなので、10か月はあっという間に来てしまいます。
10か月が経つ前に、被相続人の遺産がどれだけあるのかを調べて、相続税がかかるかどうか計算しなければなりません。
税務署は、過去の申告データから、相続税がかかるかどうかのおおよその目途をつけており、遺産があることが明らかなのに、相続税の申告がなされていない場合は、相続人への問い合わせや調査を行います。
相続税がかかるのかどうか、基本的な考え方を押さえておきましょう。
相続税は何に対してかかるのか?
相続税は、
- a、遺産総額
- b、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産
- c、相続開始前3年以内の贈与財産
この合計額から、債務、葬式費用、非課税財産を差し引いた額(正味の遺産額)が、基礎控除額を超える場合にかかる税金です。
一般的には、相続税がかかるかどうかの目安としては、正味の遺産額が「基礎控除額」を超えているかどうかで判断することになります。
相続税の基礎控除額とは?
2013年度の相続税法の改正により、2015年1月1日以降の相続では基礎控除額が縮小しました。
以前は、「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」で計算した額が基礎控除額でしたが、現在はこの計算式ではないので注意してください。
現在の基礎控除額は次の計算式で算出します。
例えば、A夫B妻、実子C、Dの四人家族で、A夫が亡くなり相続が開始した場合は、
この額が基礎控除額となります。
改正前は、この家族構成だと8,000万円が基礎控除額だったわけですから、大幅に縮小してしまったことが分かると思います。
相続税の基礎控除額を増やす対策とは?
相続税が掛からないようにするためには、基礎控除額を増やす対策が有効です。
具体的には、被相続人と養子縁組をして、法定相続人の数を増やすという方法が考えられます。
上記の事例では、実子Cが結婚していれば、実子Cの配偶者EをA夫の養子にすることが考えられます。
そうすると、
このように基礎控除額がわずかでも増加するわけです。
ただ、この方法で増やせる養子の数には限度があります。
被相続人の実子がいるときは、増やせる養子は1人に限られています。
よって、この家族では、5,400万円が基礎控除額の限度になります。
なお、被相続人に実子がいない場合は、2人まで養子を増やすことができます。
よって、配偶者がいても子がいない方の相続では、
4,800万円が基礎控除額の限度になります。
相続の放棄をした人がいる場合、基礎控除額は減額されるのか?
相続の放棄とは、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述することにより、財産・債務を一切相続しないことを言います。
これにより、その相続人は、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったもの」とみなされます。
すると、相続の放棄をした人は、相続税の基礎控除額における法定相続人としてカウントできなくなるのでしょうか?
答えを言うと、相続税の基礎控除額における法定相続人の数は、相続の放棄をした人も含みます。
よって、法定相続人が相続放棄したとしても、基礎控除額が減って、相続税が高くなることはありません。
相続税に適用されるその他の控除制度
正味の遺産額が基礎控除額を超えていれば、相続税の納税義務が生じるわけですが、その場合でも、各種の控除制度をうまく活用することで、相続税の納税額を少なくすることもできます。
配偶者の税額控除
配偶者が相続した遺産については、大幅な相続税控除が認められています。
配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、
- ・1億6,000万円までである。
- ・配偶者の法定相続分相当額までである。
このどちらか多い金額までは、配偶者に相続税はかかりません。これを「配偶者控除」と言います。
そのため、遺産が多い場合は、配偶者に多めに相続させることで、相続税を軽減することもできます。
もっとも、この場合、遺産を相続した配偶者が亡くなった後で、再び、相続税に頭を悩ませることになる可能性もあります。
配偶者控除を活用することが有効なのかどうかは、専門家とよく相談する必要があります。
小規模宅地の減額制度
遺産の中で特に高額なのは、宅地や建物でしょう。このうち、宅地については、一定の面積までは、一定の要件を満たせば、相続税計算の基礎となる評価額を減額できる制度が設けられています。
具体的には、
- ・事業用の土地は400平方メートル
- ・居住用の土地は330平方メートル
- ・貸付用の土地は200平方メートル
この面積までの部分は次の割合が減額されます。
貸付用で一定の要件を満たすもの 50%
その他、相続税額から控除されるもの
相続税を納税する必要がある場合も以下のような控除を利用することができます。
・未成年者控除
相続人が18歳未満であれば、18歳に達するまでの年数1年につき10万円が控除されます。
例えば、10歳の相続人ならば、(18-10)×10万円=80万円の控除が受けられます。
・障害者控除
相続人が障害者であれば、85歳に達するまでの年数1年につき10万円が控除されます。特別障害者の場合は、20万円でかけた額の控除を受けられます。
・暦年課税に係る贈与税額控除
正味の遺産額に加算された「相続開始前3年以内の贈与財産」分の贈与税額が控除されます。贈与税と相続税の二重課税を防ぐためです。
・相続時精算課税に係る贈与税額控除
遺産総額に加算された「相続時精算課税の適用を受ける贈与財産」分の贈与税額が控除されます。控除しきれない額については、申告により還付を受けられます。
相続税の計算方法
次の事例で考えてみましょう。
A夫B妻、実子C(19歳)、実子D(10歳)の四人家族で、A夫が亡くなり相続が開始しました。
A夫の正味の遺産額が8,800万円で、これを法定相続分に従って相続しました。
具体的には、B妻が4,400万円、実子C、Dがそれぞれ2,200万円相続しました。
この場合の相続税は次のように計算します。
まず、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×3)=4,800万円です。
すると、正味の遺産額8,800万円から4,800万円を差し引き、4,000万円が課税遺産総額となります。
4,000万円の課税遺産総額を法定相続分で按分して、相続税の速算表により、それぞれの相続税を算出し合算します。
実子C 1,000万円×10%=100万円
実子D 1,000万円×10%=100万円
250万円+100万円+100万円=450万円 この額が相続税の総額になります。
そして、相続税の総額450万円を実際の相続割合で按分します。
この事例では法定相続分に従って按分するため、次のようになります。
実子C 112.5万円
実子D 112.5万円
この額から、各種控除額を差し引きます。
B妻は配偶者控除により、相続税がかかりません。
10歳の実子Dは未成年者控除により80万円控除を受けられます。
すると、具体的な相続税は次のようになります。
実子C 112.5万円
実子D 32.5万円
相続税の速算表(国税庁のサイトより引用)
1,000万円以下 | 10% |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15%(50万円控除) |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20%(200万円控除) |
5,000万円超~1億円以下 | 30%(700万円控除) |
1億円超~2億円以下 | 40%(1,700万円控除) |
2億円超~3億円以下 | 45%(2,700万円控除) |
3億円超~6億円以下 | 50%(4,200万円控除) |
6億円超~ | 55%(7,200万円控除) |
まとめ
相続税がかかるかどうかは、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算した基礎控除額を超える遺産があるかどうかで判断します。
基礎控除額を超える場合には、様々な控除制度を利用して、相続税の納税額を少なくできないか検討してください。
上記で紹介した事例は、単純ですが、実際の相続ではもっと複雑な計算が必要になりますし、専門的な判断も必要になります。
基礎控除額を超える遺産がある場合は、早めに専門家にご相談ください。