退職金
退職金と財産分与
退職金は、財産分与の中で話題となることが多く、問題が生じやすいものでもあります。
退職金は、報償的な性格だけでなく、賃金の後払いとしての性格も有することから、夫婦間の協力関係に基づく財産として、財産分与の対象となり得ます。
もっとも、既払の退職金と将来の退職金とで分けて考える必要があります。
財産分与の詳細については、こちらのページをご覧ください。
退職一時金と退職年金
退職金制度の内容は会社によって様々であり、退職時に退職金が一括で支払われるケースもあります。
もっとも、最近では、退職時の選択により、一部を一時金、残りを企業年金として分割受領するケースも多いです。
受給方法の違いはあっても、婚姻期間(同居期間)に築いたものである限り、財産分与の対象となります。
財産分与の対象となる退職金の範囲
退職金が財産分与の対象になる場合であっても、その全額が財産分与の対象になるわけではありません。
清算的財産分与は、夫婦間の経済的な共同関係が存続する期間に築いた財産を分け合う制度です。そのため、経済的共同関係が存在しない期間に築いた財産は、原則として財産分与の対象にはなりません。
退職金で言えば、婚姻前(独身時代)の在職期間や、別居後の在職期間は、夫婦間の経済的共同関係が存在しないため、財産分与の対象にはなりません。
結局、財産分与の対象となるのは、婚姻同居期間に相応する額ということになります。
既払の退職金
退職金が既に支給されている場合、当然財産分与の対象となります。
もっとも、すでに預貯金や不動産等の資産に変化していることが多いため、別居時(離婚時)の資産の状態で清算することになります。
なお、既に述べたとおり、既払の退職金の全額が対象となるわけでなく、婚姻同居期間に相応する額に限られます。
すなわち、「退職金額×同居期間/在職期間=分与対象額」となります。
将来の退職金
将来の退職金は、現実にまだ受給しておらず、しかも、事故、病気、懲戒解雇、勤務先の業績悪化・倒産などの不確定要素があるため、果たして財産的価値があるものとして認めていいのかという問題があります。
この点については、実務上、数か月や数年後に退職し、その際に退職金を受領する蓋然性が高く、かつ、その時点での退職金の額が判明している場合又は退職金の額を算定できる場合に、財産分与の対象になると考えられています。
定年退職まで何年以内であれば対象になるか、確固たる基準が存在するわけではありませんが、定年まであと数年であれば財産分与の対象として認められやすくなり、逆に、定年まで10年や20年も時間が空いているケースでは認められにくい傾向にあります。
将来の退職金に関する清算方法
将来の退職金に関する清算方法については、いくつかの考え方があります。
1つ目は、別居時(又は離婚時)に自己都合退職した場合の退職金相当額を前提とした上で、婚姻同居期間に相応する額を算出し、これを離婚時に分与するという考え方です。
裁判実務上は、この考え方が一番多いです。
この考え方では、離婚時に清算をするため、分与を受ける側にとっては、支払いを確保しやすいというメリットがあります。他方で、自己都合退職で算定すると退職金は低くなるケースが多いこと、現実には退職金を受給していないことから、分与の金額は低くなる傾向にあります。
2つ目は、定年退職時の退職金を前提とした上で、婚姻同居期間に相応する額を算出し、退職時までの中間利息を控除し、これを離婚時に分与するという考え方です。
裁判例のうち、定年まであと5年であるなど、定年退職が比較的近い将来に迫っているような場合に、この考え方が採られることがあります。
3つ目は、定年退職時の退職金を前提とした上で、婚姻同居期間に相応する額を算出し、中間利息は控除せずに、将来の退職時に分与するという考え方です。
この考え方では、現実の退職金を対象とするため、夫婦間の公平性は確保しやすいです。
その反面、支払時期が将来の退職時であるため、支払いがなされるかは不確実です。そのため、定年退職時期が近いといった場合を除き、この考え方は避けられる傾向にあります。
さいごに
財産分与の中でも退職金は高額となりやすく、分与をめぐって夫婦間で見解が対立することも珍しくありません。
退職金の財産分与に関しては、専門的かつ込み入った解釈、論理構成が必要となりますので、退職金の財産分与についてお悩みの方は、離婚事件の経験が豊富な京浜蒲田法律事務所の弁護士にご相談ください。