財産分与で控訴するかは慎重に(財産分与における不利益変更禁止の原則の不適用)
1 不利益変更禁止の原則とは?
民事訴訟法304条は、第二審(控訴審)における判決について、「第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、することができる」と規定しています。
民事訴訟では、当事者が申し立てていない事項について判断をすることはできないとされています(民事訴訟法246条。これを処分権主義といいます。)。
この原則に基づき、第二審(控訴審)において審理・判断の対象となるのは、控訴人が不服を申し立てた範囲に限られます。
控訴人は、自己にとって有利な結論が得られるように不服申立て(控訴)をするわけですから、裏を返せば、裁判所は控訴人の不服申立てに反して、控訴人にとって不利な判決をすることはできないということになります。これが「不利益変更禁止の原則」です。
2 財産分与に関して不利益変更禁止の原則が問題となる場合
例えば、第一審で夫(被告)から妻(原告)に対して100万円の財産分与を命じる判決が出たところ、妻は控訴せず、夫だけが控訴した場合において、第二審で新たになされた主張や証拠の提出の結果、夫から妻に対して300万円の財産分与を命じることができるか(控訴していない妻がそのような判決を求めることができるか)といった状況が考えられます。
仮に、第二審で300万円の財産分与が命じられた場合、夫(控訴人)としては、自分だけが控訴をしたにもかかわらず、第一審よりも不利な判決を受けるということになり、それが不利益変更禁止の原則に反しないかということが問題となります。
3 最高裁判所の考え
この問題については、最高裁判所の考えが示されています(最高裁平成2年7月20日第二小法廷判決)。
最高裁は、第一審で被告に財産分与を命じた判決に対して被告が控訴したところ、控訴審判決が原告(被控訴人)からの控訴がないにもかかわらず第一審よりも多額の財産分与を認めた事案において、「離婚の訴えにおいてする財産分与の申立については、裁判所は申立人の主張に拘束されることなく自らその正当と認めるところに従って分与の有無、その額及び方法を定めるべきものであって、裁判所が申立人の主張を超えて有利に分与の額等を認定しても民訴法246条の規定に違反するものではない。」と判断しました。
つまり、財産分与については不利益変更禁止の原則の適用がないことを明らかにしました。
4 まとめ
このように、人事訴訟における財産分与については、民事訴訟の基本原則である不利益変更禁止の原則の適用がないということになります。
そのため、財産分与の点で自分だけが控訴する場合であっても、「第一審よりも不利な判決が出ることはない」という保証があるわけではなく、控訴審での審理内容によっては、第一審よりも不利な判断となる可能性もあります。その分、財産分与に関して控訴提起をするかどうかは慎重な検討が必要と言えるでしょう。
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