監護権と親権の違いとは? 離婚で親権を分けるメリットについて解説
離婚のときに未成年の子がいる場合は、夫婦のどちらが親権を持つのか決めますが、親権と監護権を分けることもあります。
監護する権利を得た側は子供と一緒に暮らすことができますが、親権者と同じ権利、義務は有しておらず、子の財産管理等はできません。
親権と監護権を分けるメリットやデメリットについて解説します。
監護権と親権の違い、分ける意味やそれぞれの権限、メリットとデメリットを解説
離婚の際は親権者を決めなければなりませんが、単独親権でも親権と監護権に分けた上で、子どもと一緒に暮らす側が監護者、他方が親権者となることもあります。
共同親権の場合も、監護権を得た親が実際に子供と一緒に暮らすことになります。
監護者は、子どもの監護と教育の権利義務など、民法で定められた3つの権利を獲得します。
親権は得られなくても、子どもと一緒に暮らすことができる点がメリットになります。
その他、監護権と親権を分けることには様々なメリットやデメリットがあるので解説していきます。
親権とは
親権は、財産管理権と身上監護権の2つで構成されています。
財産管理権
子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表(代理)する権限のことです(民法824条)。
未成年者の法律行為に同意を与え、取消す権限も含まれます(民法5条)。
また、身分行為の代理権もこちらに含まれます。
身上監護権
身上監護権は次の権利義務のことです。
- ・監護及び教育の権利義務(民法820条)
- ・居所の指定権(民法822条)
- ・職業の許可権(民法823条)
親権と監護権の違い
未成年の子どもがいる夫婦が離婚し、父母のどちらかの単独親権とした場合は、親権と監護権を分けることがあります。
また、共同親権の場合でも、子どもと一緒に暮らす側が監護権を主張することになります。
本来は、未成年の子どもの親権者は同時に監護権を持っているのが一般的ですが、監護権と親権を分けた場合、それぞれどのような権限を有することになるのでしょうか?
親権と監護権に分けた場合の法律関係
離婚時に単独親権を選択したうえで、親権と監護権を分けた場合、共同親権でも一方が監護権を主張している場合の法律関係はどうなるのか確認しましょう。
監護権を得た親は、監護権について、「親権者と同一の権利義務を有する」ことになります。
親権と監護権に分けた場合、親権者は、子どもの監護権を失うと勘違いされている方もいらっしゃるかもしれませんが、親権者も依然として監護権を有していることに注意してください。
監護者は単独で、監護と教育の権利義務、居所の指定権、職業の許可権を行使することができます(民法824条の3一項後段)。
そして、監護者が子どもに対してこれらの監護権を行使する場合、親権者は監護者の行為を妨げてはならないとされています(民法824条の3二項)。
そのため、監護者が子どもと一緒に暮らして監護権を行使している場合、他方の親権者は、事実上監護権を行使できないということです。
親権と監護権に分けた場合のそれぞれの権限
離婚時に単独親権を選択したうえで、親権と監護権を分けた場合、親権者と監護者がそれぞれ行使できる権限は次のとおりです。
監護者
- ・監護及び教育の権利義務(民法820条)
- ・居所の指定権(民法822条)
- ・職業の許可権(民法823条)
親権者
- ・上記の身上監護権以外の親権すべて(財産管理権、法律行為の同意、取消、代理権、身分行為の代理権)
例えば、母親が監護者、父親が親権者になったとしましょう。
この場合、母親は子どもと一緒に暮らして、普段の生活や教育について責任を持つことになります。
ただ、子どもに関して重要事項を決めたり、子どもの法律行為等に同意を与える場合は、父親が代理したり同意を与える必要があります。
子どもの進学先を決めたり、子どもが養子縁組したり、子どもが重要な契約をする際は、父親が関与することになります。
親権と監護権を分けることのメリット
親権と監護権を分けた場合、子どもと一緒に暮らす監護者だけでなく、親権者にとってもメリットがあります。
具体的に確認していきましょう。
離婚の話し合いがまとまりやすいことがある
未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合は、親権を巡って大きな争いになりがちです。
父母のどちらも親権を譲らない上、共同親権を選択できない場合は、特に争いが長期化しがちです。
そこで、子どもと一緒に暮らしている親の方が、親権者となることにこだわるよりも、子どもと一緒に過ごせることを優先する場合は、妥協案として、親権は相手に譲るけど、監護権は獲得するという方法が検討されます。
監護者は親権なしで子どもと一緒に暮らせる
離婚後に単独親権とした場合、子どもと一緒に暮らすのは原則として親権を得た親ですが、親権と監護権を分けることにより、親権を得ていない親でも監護者として子どもと一緒に暮らすことができます。
子どもと一緒に暮らせなくても子どもと関係を維持できる
離婚時に単独親権となり、子どもの親権を得られなかった親は、子どもとのつながりが希薄になりがちです。
しかし、監護権を譲り、親権を獲得した場合は、子どもと一緒に暮らすことはできなくても、子どものライフイベントの節目で親権者として関与できるようになり、子どもとのつながりを維持しやすくなります。
養育費の不払いが発生しにくい
養育費は、子どもを監護していない親が、監護者に対して、子どものために支払う形になります。
離婚時に単独親権となり、子どもの親権を得られなかった親は、子どもとのつながりを感じられなくなると、養育費の支払いも滞りがちです。
その点、監護権はなくても親権者であれば、親としての責任を自覚しやすいため、養育費の不払いが発生しにくくなります。
親権と監護権を分けることのデメリット
親権と監護権を分けた場合、監護者と親権者双方にとってデメリットとなることがあります。
親権者の同意が必要な場面で困る
未成年の子どもが何らかの重要な契約をする場合は、親権者の同意が必要になります。
例えば、子ども名義で銀行口座を開設したり、携帯電話を契約する場合などです。
進学の際に入学の手続きで親権者のサインが必要になる場合もあります。
また、子どもが病気で入院したり、手術が必要な場面でも、親権者の同意が必要になることもあり、直ぐに連絡が取れないと困ることもあります。
親権者なのに子どもと距離ができてしまう
親権者は子どもにとって最も身近な大人になるはずですが、監護者がいる場合は、子どもと一緒に暮らすことができないため、子どもと距離感ができてしまうことが親権者にとってのデメリットになります。
親権と監護権を分ける事情(理由)
単独親権としても様々な事情がある場合は、親権と監護権を分けることがあります。
親権と監護権を分ける代表的な事情(理由)を紹介します。
離婚協議がまとまらない場合
父母の双方が単独親権の獲得を目指しており、一歩も譲らないために、双方が妥協して、親権と監護権を分ける場合です。
親権者は子どもの親権者であるという立場を取り、監護者は子どもと一緒に暮らす、実生活を選んだということになります。
親権者が子どもを虐待している
離婚時に父母の一方の単独親権と決めたものの、親権者による子どもの虐待が発覚することもあります。
この場合は、親権者を変更することも可能ですが、親権者を変更するためには、家庭裁判所の調停・審判が必要です。
親権者の変更はよほどの事情がないと認められないため、難しい場合に、親権者とは別に監護者を定めることがあります。
親権者が子どもを監護できない場合
親権者が海外に単身赴任することになったり、病気などで直接監護できなくなった場合に、父母の協議で監護者を決めることがあります。
親権と監護権を分ける(監護者を決める)方法
親権と監護権を分けたり、監護者を決める方法は、3通りあります。
- ・父母が協議して決める
- ・子の監護者の指定調停を申し立てる
- ・子の監護者の指定審判を受ける
それぞれの手続きを確認していきましょう。
父母が協議して決める
親権と監護権を分けることは、離婚時だけでなく、離婚して単独親権とした後でも可能です。
離婚後でも親権者の変更とは異なり、父親と母親が協議するだけで親権と監護権を分ける事もできますし、監護者を変更することもできます。
また、共同親権の場合でも、父親と母親のどちらが実際に子供を監護するのかは話し合って決める必要があります。
父母が協議して親権と監護権を分け、監護者を決めた場合は、その話し合いを持って、監護者が決まります。
親権者とは別に監護者がいることについて、届出等は必要ないですし、離婚届等にもその情報は反映されません。
つまり、子どもの監護者であることを公に示せる戸籍情報等はないということです。
そのため、父母の協議だけで親権と監護権を分けた場合は、その旨を明記した離婚協議書や公正証書を作成することが重要です。
離婚協議書や公正証書がないと、子どもの監護者である旨の証拠が全くない状態になりますし、親権者側から監護者が子を勝手に連れ去ったと主張されても抗弁できなくなってしまうことがあります。
子の監護者の指定調停を申し立てる
父母の協議で監護者を決めることができない場合は、家庭裁判所に子の監護者の指定調停を申し立てることができます。
離婚が成立していない場合は、離婚の調停の中で、子の監護者の指定が議題に上ることもあります。
離婚後でも監護者を変えたい場合は、子の監護者の指定調停を申し立てることができます。
子の監護者の指定調停は、離婚の調停と同様に、調停委員が父母の双方から話を聞き取り、協議を進める形になります。
また、現在の子どもの養育状況について、家庭裁判所調査官による調査が行われます。
子の監護者の指定を希望する事情、親権者の意向、養育状況や家庭環境、子どもの年齢や就学状況、子どもの意向など、様々な点を考慮したうえで、子の福祉の観点から話し合いを進めていきます。
調停が成立し、子の監護者の指定を受ければ、その調停調書謄本が、子どもの監護者であることの証拠になります。
子の監護者の指定審判を受ける
子の監護者の指定調停が成立しない場合は、自動的に審判手続が開始されます。
家庭裁判所の裁判官が調停の経緯や家庭裁判所調査官による調査結果を踏まえたうえで、子の監護者を指定すべきと判断した場合は、子の監護者の指定審判を行います。
審判が終わると、審判書謄本が出されます。
審判から2週間以内に相手方が不服申立てを行わなければ、審判が確定するので、審判書謄本と確定証明書が、子どもの監護者であることの証拠になります。
裁判離婚で親権と監護権を分けられる?
父母が離婚調停を申し立てていて、調停が不成立となった場合は、裁判で離婚を求めることが可能になります。
裁判となった場合は、裁判の中で、離婚後の親権者を決めることになりますが、その際に親権と監護権を分けたい旨の主張を行うことも可能です。
ただ、裁判所は親権と監護権を分けることに消極的なので、裁判の場ではストレートに親権獲得を目指すべきです。
共同親権とする場合も、父親と母親のどちらが子供の監護者になるか決める必要があるため、自分が子供と一緒に暮らす方が子供の福祉のために良いといった主張を行う必要があります。
親権と監護権を分けるなら協議で決めるべき
親権と監護権を分けても、戸籍に反映させることはできません。
また、裁判所でも、子の監護者の指定調停が申し立てられた場合はともかく、調停離婚や裁判離婚では、親権と監護権を分けることはあまり積極的ではありません。
どうしても、親権と監護権を分けたいのであれば、父母の話合いでまとめるのが最も確実な方法と言えます。
そのためには、父母の双方が冷静に話し合う必要がありますし、当事者双方が法的な根拠に基づいて、それぞれの主張を行う必要があります。
さらに、親権と監護権を分けたことを示す公的な方法がないことから、離婚協議書や公正証書で証拠を残すことが大切です。
その意味で、親権と監護権を分けるなら弁護士に相談し、アドバイスを受けたり、代理での交渉を依頼すべきです。
親権と監護権を分けた(監護者となった)後に行うべきこと
親権と監護権を分けたり、監護者になった後に行うべきことを確認しましょう。
子どもの戸籍
親権と監護権を分けても、戸籍上で子どもの監護者が親権者とは別に存在していることを示す方法はありません。
そのため、市区町村役場での戸籍に関する手続きはありません。
養育費を請求する
養育費は、子どもを監護、教育するために必要な費用です。
そのため、監護者が親権者から養育費を受け取る形になります。
親権者に対して養育費を請求すべきことになりますが、監護者の方が収入が多い場合は請求できないこともあります。
児童扶養手当の支給を受ける
児童扶養手当は、子どもを監護するひとり親が受け取るものです。
そのため、親権と監護権を分けた場合は、監護者が受け取ることになります。
ただ、監護者であることは、戸籍からはわからず、役所から支給を拒否されてしまうこともあります。
こうした事態を防ぐためにも、監護者であることを示す離婚協議書や公正証書が重要になります。
まとめ
離婚に際して、親権と監護権を分けることはあまり多くはありません。
今後は、離婚後も共同親権とすることが可能になるため、親権と監護権を分けるケースはさらに少なくなることも考えられます。
ただ、単独親権にこだわり、双方が譲らない場合は、親権と監護権を分ける形で話がまとまることもあるでしょう。
親権と監護権を分けた場合は、監護者であることを公示する方法がないため、離婚協議書や公正証書にその旨を記載しておくことが大切です。
また、共同親権の場合も、子供と一緒に暮らすためには監護権を獲得しなければなりません。
親権と監護権を分けようと考えている方や当事者の話し合いが難航している場合は、早めに弁護士にご相談ください。
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