婚姻費用の調停で聞かれることや流れは? 離婚を有利に進めるためのコツも解説
目次
婚姻費用の分担調停で調停委員に聞かれることはほぼ決まっているため、調停を有利に進めるためには前もって準備しておくことが大切です。夫婦の間で婚姻費用を請求するためのコツや手続きの流れについても解説します。
婚姻費用の分担調停で聞かれることは? 調停の流れや有利に進めるためのコツも解説
婚姻費用とは、婚姻関係にある夫婦がお互いに分担する生活費などのことです。別居中でも夫婦関係が続いている場合は、夫または妻に対して婚姻費用を請求できますし、婚姻費用の支払いのみを求めて家庭裁判所に調停を申し立てることも可能です。
そして、調停で聞かれることはほぼ決まっていますから、スムーズに答えられるようにあらかじめ回答を準備して臨むことが大切です。
この記事では、婚姻費用の分担調停で聞かれることの具体的な内容を解説すると共に、調停を有利に進行するためのポイントも紹介します。
婚姻費用とは
婚姻費用とは、婚姻中の夫婦の一方が相手方に請求できる費用です。
別居していても婚姻関係が続いている間は、夫婦はお互いを扶養する義務があります。
そのため、夫婦のうち収入が少ない方から収入の多い相手に対して婚姻費用の支払いを求めることができます。
婚姻費用として請求できるものは?
婚姻費用の請求というと、別居にかかる費用を請求するものというイメージがあると思います。
例えば、別居して賃貸物件を借りた場合は、その賃料、家賃を相手方に請求できるというイメージがあるでしょう。そのため、実家で別居している場合は、婚姻費用を請求できないと考える方もいるかもしれません。
しかし、婚姻費用は実家で別居しているケースでも相手に請求できます。
婚姻費用は、衣食住の費用だけでなく、交通費、交際費、医療費、娯楽費なども含むからです。
もちろん、子どもも一緒に別居している場合は、子どもの養育費や教育費などもまとめて相手に請求できます。
婚姻費用の調停とは?
婚姻費用は、夫婦が別居を開始した時点で、相手方に対して請求できます。裁判手続を利用しなくても、夫婦の間で話し合いを行って、婚姻費用を支払うという形で合意をまとめても構いません。
ただ、別居するほど仲が悪くなっている一方で、離婚には踏み切れない夫婦の場合、当事者同士では話し合いが上手くいかず、合意が成立しないことも多いものです。
そのように解決が難しい場合は、家庭裁判所に「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てることを検討しましょう。
調停では、家庭裁判所の調停委員が夫婦の双方から話を聞いて、話し合いをまとめる方向で動いてくれます。
調停期日を何度か繰り返した後で、調停が成立すれば、調停調書に婚姻費用の分担方法について具体的に記載されます。
婚姻費用を支払う側は、その記載通りに支払う義務が生じます。もし、支払いが滞る場合は、調停調書に基づいて強制執行を申し立てることができます。
また、調停が不成立になった場合でも、自動的に裁判官による審判に移行します。この場合は、家庭裁判所の裁判官が調停の経緯なども踏まえて、審判を下します。
婚姻費用の調停で聞かれることは?
婚姻費用の調停では、調停委員が夫婦双方にとって良い方向に解決策を提示したり、助言を行います。そのためには、調停委員が夫婦双方の状況を把握しなければなりません。
婚姻費用の調停で聞かれることは、おおよそ、決まっているので、答えられるようにしておくことが大切です。
また、聞かれることに対する答えによっては、調停で不利になることもありますから、よく考えて回答を準備しておきましょう。
婚姻費用の調停で聞かれる具体的な情報
婚姻費用の調停で聞かれることの具体的な情報を紹介していきましょう。
聞かれることのリストを紹介すると次のとおりです。
- ・夫婦それぞれの収入に関すること
- ・夫婦それぞれの支出に関すること
- ・夫婦それぞれが現在有する財産について
- ・子どもの有無や監護状況について
- ・家庭の状況について
- ・婚姻費用の調停を申し立てるまでの経緯
- ・将来の見通しについて
- ・希望する婚姻費用の金額や支払い方法
一つ一つ確認していきましょう。
夫婦それぞれの収入に関すること
婚姻費用の調停では、夫婦それぞれの収入がどれだけあるのかを確認したうえで、夫婦のどちらに婚姻費用を支払う義務が生じるのか確定します。
夫婦それぞれの収入は、ざっくりした数字ではなく、具体的な数字が聞かれます。
主な収入については、月収、年収を具体的な数字で伝える必要がありますし、ボーナスもいくらもらっているのか伝えなければなりません。
また、副業をやっている場合や不定期の収入がある場合も、その数字を知らせる必要があります。
これらの収入は、口頭で伝えるだけでなく、資料を元に説明します。
会社員などの給与収入者であれば、給与明細、源泉徴収票、確定申告書類などを示します。
個人事業者(自営業)の場合は、確定申告書類が基本です。
また、事業によりどの程度の利益や収入を得ていて、自由に使えるお金がどれだけあるのかを聞かれることもあります。
そのような場合は、売上高、利益、経費を帳簿記録、銀行口座の取引記録などで示します。
また、取引関係について、契約書、発注書、請求書などで説明すべきこともあります。
不動産や株式投資による収入がある場合も正直に伝えます。
これらの収入は隠したいと思うかもしれませんが、配偶者から、家賃収入や投資で利益を得ているはずと言われれば、隠すことはできません。
家賃収入は、賃貸借契約書や預金通帳、株式投資や不動産投資による利益は銀行の取引記録などを基に説明します。
年金収入がある場合や公的給付金を受けている場合は、支給通知書や入金証明書によって示します。
夫婦それぞれの支出に関すること
夫婦それぞれの収入の後は、支出も確認します。
こちらも大まかな数字ではなく、細かく聞かれるため、家計簿などを基に生活の状況を説明できるようにしておきましょう。
具体的に聞かれる費目としては次のようなものがあります。
- ・住宅ローン又は家賃
- ・水道光熱費
- ・食費
- ・教育費、養育費
- ・子どもの授業料、教材費用、習い事の費用
- ・交通費
- ・医療費
- ・税金や保険料の支払額
- ・衣料品や日用品の費用
- ・娯楽費
これらの支出は、裏付けとなる領収書、レシート、銀行預金の取引記録、クレジットカードの明細書などで説明すべきこともあります。
夫婦それぞれが現在有する財産について
夫婦の収入と収支を確認した後は、夫婦それぞれが現在、どの程度の財産を有しているのか確認します。
どちらか一方に財産や資産が多くある場合は、その点も考慮して、婚姻費用を計算することになるからです。
財産については、夫婦がお互いにどの程度あるか、知っているはずです。財産がないといった嘘をついてもバレてしまうので、資料を基に正直に話す必要があります。
預貯金については、銀行の通帳、取引明細や残高証明書を用意します。
不動産については、不動産登記簿謄本や固定資産税評価額証明書、課税明細書などです。
株式などの投資については、証券会社の取引明細書や取引残高報告書を用意します。
子どもの有無や監護状況について
未成年の子どもがいる場合は、婚姻費用の算定の際に、養育費も考慮する必要があります。
そのため、子どもの有無は必ず聞かれます。
また、子どもの年齢や学年、高校や大学に通っている場合は、国立、公立か私立かも聞かれます。
さらに、どちらが監護しているのか、養育費はどうしているのかも聞かれます。
養育費が実際に支払われている場合は預金通帳などの裏付け資料が必要です。
家庭の状況について
婚姻費用は、裁判所が用意している「養育費・婚姻費用算定表」によって、夫婦の収入や子どもの有無を踏まえて、おおよその金額を出すことができます。
ただ、「養育費・婚姻費用算定表」で出す数字は、一般的な家庭の状況に合わせた金額です。個々の家庭の生活の状況によって本当に必要な額は異なります。
例えば、介護が必要な家族、病気がちで医療費がかかる家族がいる場合は、その費用を考慮する必要があります。
そのため、家族の構成や年齢、健康状態などについても細かく聞かれることがあります。
特別な事情があるのに、調停委員に伝えなければ、一般的な家庭の状況に合わせた金額で婚姻費用が算出されてしまうため、注意しましょう。
婚姻費用の調停を申し立てるまでの経緯
婚姻費用の調停を申し立てるまでに夫婦の間でどのようなことがあったのかを聞かれます。
多くの場合は、別居しているので、別居に至った経緯や理由も聞かれるでしょう。
別居や夫婦の仲が険悪になった原因として、配偶者によるDV、モラハラ、不倫、不貞行為などが挙げられるケースでは、一方が有責配偶者ということになります。
有責配偶者が婚姻費用を請求する側の場合は、婚姻費用が減額されることがあります。
また、婚姻費用について、夫婦で解決に向けて、話し合いを行ったかどうかも聞かれます。
夫婦で話し合いを行っていない場合でも、調停を取り下げるように言われるわけではないので正直に話しましょう。
婚姻費用を請求しても支払われないというケースでは、請求のために内容証明郵便等を利用したのかや具体的な請求金額も確認されます。
将来の見通しについて
夫婦それぞれの将来の見通しについても聞かれることがあります。
別居している場合、将来離婚する予定なのかを聞かれることもありますが、婚姻費用に関して重要なのは、収入、収支に大きな変化がある見込みかどうかです。
収入については、昇給の可能性があるのか、逆に退職などで減る可能性があるのかという点です。
独立、起業、転職などを計画していて、収入に変化がある可能性はあるのかもポイントです。
収支については、住居を購入して支出が増えるのか、子どもがいる場合は、今後、教育にかかる費用が増加する見込みかということです。
また、ご自身や家族の健康に不安がある場合は、医療費や介護費用が掛かる可能性があるのかも確認します。
婚姻費用として一旦決めた金額は、将来、変えることができないわけではありません。事情の変化があれば、話し合いや調停で変更することもできます。
ただ、既に、将来の見通しがある場合は、調停の場で主張しておきましょう。
希望する婚姻費用の金額や支払い方法
婚姻費用の金額は、裁判所が用意している「養育費・婚姻費用算定表」で計算しますが、もちろん、自分の希望を伝えることもできます。
収入や収支などを示したうえで、譲れない金額のラインや納得できる金額がある場合は、希望を伝えておきましょう。
また、支払期日や支払い方法についても、調停調書に記載するため、自分が受け取りやすい方法や希望を伝えておきましょう。
離婚と婚姻費用の請求の調停は同時にできる?
離婚調停と婚姻費用の調停は同時に申し立てることができます。
この場合は、一つの調停手続、つまり、離婚調停において、離婚と婚姻費用の分担の話し合いが行われます。
こうしたケースでは、離婚を決意するに至った背景や夫婦の関係を修復できる見込みはないのかという点を聞かれることがあります。
もちろん、夫婦の双方が離婚に傾いているなら、離婚の条件や慰謝料、財産分与について、話を進めていくことになります。子どもがいる場合は、養育費や面会交流など決めるべきこともたくさんあります。
調停において、夫婦間で離婚の条件で折り合えなかった場合でも、婚姻費用については調停が成立することもありますし、調停不成立の場合でも裁判官が審判を下してくれます。
婚姻費用の調停で聞かれることに備えるには?
婚姻費用の分担請求調停で聞かれることに備えるには、前もって準備しておくことが大切です。
上記までに紹介した聞かれることのリストを基に、メモ書きを用意したり、資料を集めておくとよいでしょう。
こうした準備をしないで、調停期日に赴いても時間を無駄にしてしまうことになるので注意したいものです。
また、調停で聞かれることは、配偶者にも同じ質問がなされている可能性があります。
その答えが食い違っていれば、どちらかが嘘をついていることになるわけですが、調停委員としても嘘をついている方の発言はまともに取り合わなくなる可能性があります。
そのため、聞かれることに対しては正直に答えるべきです。
婚姻費用の調停の前に生活費を押さえたい場合は?
婚姻費用の調停の成立を待っていたら、生活費が足りなくなる等、経済的に追い詰められた状況にある方もいるでしょう。
そのような場合は、相手方に対して婚姻費用を仮払いしてもらえるように仮処分の申立てを行うこともできます。
これを家事事件手続法157条に基づく婚姻等に関する審判事件を本案とする保全処分の手続と言います。
家庭裁判所に状況を説明して、手続きを進めてもらうことも検討しましょう。
そのためには、切羽詰まった状況にあることを示す資料も必要なので、弁護士等に相談することも検討してください。
婚姻費用の調停で聞かれることは弁護士にご相談ください
婚姻費用の調停で聞かれることの具体的な内容は、ケースごとに異なります。
この記事で紹介したものはあくまでも一般的な事例に過ぎません。
どのようなことが聞かれるのかわからず不安な方も多いでしょう。
そのような場合は、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士なら婚姻費用の調停で聞かれることをシミュレーションし、どのように答えるのが有効なのか、そのためにどのような資料や証拠を用意すればいいのか、アドバイスすることができます。
また、離婚調停への出席が難しい場合は、弁護士に代理で出席してもらうように依頼することも可能です。
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