特別寄与料とは何か?介護してくれた息子の嫁も遺産が受け取れる!
被相続人に対し献身的に貢献した方が、法定相続人ではない「息子の嫁」だった場合、従来の民法では遺産を受け取ることができませんでした。
ところが民法改正によって新設された「特別寄与料」という制度を活用することで、貢献が法的に評価され、金銭を受け取ることが可能です。
今回は特別寄与料とは何か・介護してくれた息子の嫁も遺産が受け取れる、について、どこよりもわかりやすくご紹介します。
本記事を読むことで、法定相続人ではない「息子の嫁」であっても特別寄与料を請求することで自身の貢献を正当に評価され、長年の献身が報われる可能性があります。
目次
特別寄与料とは何か?
特別寄与料とは、被相続人に対し「特別な寄与」をした相続人以外の親族に対し、相続人から貢献度に応じた金銭を受け取れる制度のことです。
簡単に言うと、亡くなった方の介護を献身的に行ったり、事業を手伝って財産を増やすことに大きく貢献した場合に、相続人ではない親族であっても「特別な寄与」が認められれば相続人に対して、その「寄与度に見合った金銭を請求できる」ということです。
この時、相続人から金銭を受け取れる人のことを「特別寄与者」といいます。
ただし特別寄与者が特別寄与料を請求する権利を得るにはいくつかの条件を満たす必要があります。
次の章からいくつかの条件について、詳しくご紹介します。
特別寄与料を請求できる親族とは?
特別寄与料を請求する権利があるのは、亡くなった方の親族のうち、相続人ではない方です。
ちなみに親族とは、家族や血縁、結婚でつながった人たちのことです。
ただし単に親族であれば誰でも請求できるというものではありません。
こちらでは相続人へ特別寄与料を請求できる親族の条件について解説します。
①6親等以内の血族
1つ目は6親等以内の血族です。
血族とは血のつながりのある親族のことです。
実の親子は当然血族ですが、血のつながっていない養親と養子も血族になります。
こちらでは6親等以内の血族についてご紹介します。
6親等以内の血族とは次の通りです。
1親等 | 父母・子 |
2親等 | 祖父母・孫・兄弟姉妹 |
3親等 | 曾祖父母、曾孫、叔父(伯父)・叔母(伯母)、甥・姪 |
4親等 | 従兄弟・従姉妹 |
5親等 | 従甥・従姪 |
6親等 | はとこ |
親等(しんとう)の計算式は、本人を「0親等」としてみて、親や子など世代が変わるごとに1つずつ加算されていく仕組みです。
数字が大きくなるほど本人よりも遠い血族という関係になります。
ちなみに本人からみて、祖父母・孫・兄弟姉妹のように2世代離れていれば2親等になります。
②3親等以内の姻族(いんぞく)
姻族とは結婚によってつながった親戚のことです。
簡単にいうと本人の配偶者の血族、または本人の血族の配偶者のことになります。
本人の配偶者の親、兄弟姉妹、祖父母、または本人の子の配偶者、兄弟姉妹の配偶者などが姻族になります。
3親等以内の姻族とは、本人の配偶者の血族または本人の血族の配偶者で、本人から見た3親等以内の人たちのことです。
ただし姻族関係は、離婚や配偶者の死亡によって終了します。
これにより法的な親族関係も消滅することになります。
よって離婚や配偶者の死亡があった場合には、特別寄与料を請求は原則として請求できなくなります。
③配偶者は特別寄与料の請求の対象外
配偶者は被相続人の親族ではありますが特別寄与料の請求の対象外になります。
その理由は配偶者は相続人として遺産を受け取る権利があるからです。
特別寄与料は「相続人ではない人」が自身の特別の貢献を認めてもらうための制度なので、相続人である配偶者は特別寄与料の請求の対象外になります。
特別寄与料を請求できる3要件
特別寄与料を請求するためには、被相続人に対して3要件を満たす必要があります。
3要件のうち、1つでも満たしていない場合、特別寄与料の請求は原則として認められません。
こちらでは特別寄与料を請求できる3要件についてご紹介します。
①療養看護、その他の労務の提供
療養看護とは病気や高齢で介護が必要な状態だった時にその世話をすることをいいます。
その他の労務の提供とは療養看護以外の労働で、事業への協力や財産管理などの労働を提供することです。
ポイントは被相続人のために、介護や仕事で特別な貢献ができた実績があることです。
②無償であること
無償であることとは、介護や仕事の対価として、被相続人やその家族から現金、給料、小遣いなどを一切受け取っていないということです。
仮にお金をもらったとしても、一般的な労働の対価と比較して、明らかに低額である必要があります。
ただし被相続人の介護やお店をただで手伝っていても、被相続人から生活費や住居費などを出していてもらっていた場合、報酬とみなされる可能性があります。
③労務の提供によって被相続人の財産が維持または増加していること
もし被相続人へ療養看護、その他の労務を無償で提供しても財産の維持、増加に影響を与えていない場合、特別寄与料の請求は認められません。
その理由は。特別寄与料は被相続人の財産の形成に貢献したのに何ももらえないのは不公平であることを解消するための制度だからです。
療養看護であれば医療費の節約、事業であれば人件費などの節約に貢献する必要があります。
ポイントは労務の提供が、直接的または間接的に、被相続人のお金や資産にプラスに働いたという事実があることです。
特別の寄与とは?
特別の寄与とは、一般的な親族による助け合いを超える特別な貢献をしたことで、被相続人の財産を維持したり増やしたりしたということです。
特別の寄与には、被相続人への「特別な貢献」と「財産の維持、増加への貢献」の2つの要素が含まれます。
そのため単に被相続人に労務を提供しただけでなく、それが被相続人の財産に良い影響を与えたことが認められてはじめて、「特別の寄与」があったと判断されます。
特別寄与料が請求できる期限
特別寄与料の請求には厳格に期限が決められています。
せっかく資格や要件を満たしていても、期限を過ぎてしまうと行使することができません。
そうなると、長年にわたる献身的な貢献があったとしても請求の権利は失われてしまいます。
そうならないためにも特別寄与料を請求できる期限内に請求を行う必要があります。
特別寄与料の請求期限は次の2つの基準のいずれか早い方です。
①除斥期間(被相続人が亡くなった時から1年以内)
被相続人が亡くなった日が相続開始の日になるので、当日から1年以内に請求手続きを始める必要があります。
仮に、2024年7月1日に被相続人が亡くなった場合、2025年7月1日までに請求を開始しなければなりません。
②消滅時効(相続人が誰かを知った時から6ヶ月以内)
特別寄与者が被相続人の財産を相続する人が誰かを知った日、または知ることができた日から6ヶ月以内に請求手続きを始める必要があります。
仮に、2024年10月1日に相続人が誰かを知った場合、2025年4月1日までに請求を開始する必要があります。
特別寄与料を請求する流れ
被相続人の息子の嫁が特別寄与料の請求に関するすべての要件を満たしていれば特別寄与料を請求することが可能です。
こちらでは特別寄与料を請求する流れをステップごとに分けて解説します。
①特別寄与料を請求できるかの確認
ステップ①は自分が特別寄与料を請求できるかの確認です。
次の点を確認する必要があります。
・被相続人の相続人ではないこと
・被相続人の親族であること
・被相続人への介護や労働の提供が無償であったこと
・被相続人に対し特別な寄与があったこと
・被相続人の財産を維持、増加させたこと
②請求期限内であることの確認
ステップ②は請求期限内であることの確認です。
すべての要件を満たしていても特別寄与料は請求期限を1日でも過ぎていると特別寄与料の請求ができません。
被相続人への特別の貢献の事実がある方はできるだけ早めに被相続人が亡った日を確認しましょう。
③証拠を集める
ステップ③は証拠を集めることです。
どんなに被相続人に介護や手伝いを無償で行い、財産の維持や増加に影響を与えても証拠がなければ特別寄与料を請求することはできません。
特別寄与料を請求するには証拠が必要です。
特別寄与料の請求をするための主な証拠は次の通りです。
❶療養看護に関する証拠
・介護日記
・病院の診断書
・要介護認定書
・介護の様子を撮影した写真や動画
・第3者による介護をしたことに関する証言
・節約した証拠
❷労働に関する証拠
・事業に関するお金の流れがわかる帳簿
・領収書
・事業の作業に関する記録
・労働の様子を撮影した写真や動画
・第3者による労働をしたことに関する証言
・財産の証明(銀行口座・不動産登記簿)
❸無報酬だったことに関する証拠
・銀行口座の記録
・家計簿の記録
・第3者による無報酬だったことに関する証言
④相続人に特別寄与料の請求を伝える
ステップ④は相続人に特別寄与料の請求を伝えることです。
相続人に特別寄与料を請求する意思があることを明確に伝えることで、相続人側もその事実を認識し対応を検討します。
相続人に請求を伝える方法としては、口頭で直接伝えることも可能ですが、後々のトラブルを避けるためにも、書面(内容証明郵便など)で通知することが最も確実です。
書面であれば、いつ、誰が、どのような内容を伝えたのかが明確に残るため、言った言わないなどの争いを防ぐことができます。
主に次の流れで相続人に特別寄与料の請求の意志があることを伝えてください。
❶相続人を特定(遺言書や戸籍謄本などで確認する)
❷被相続人への貢献の内容と請求金額の提案を書面で作成する
❸相続人に書面を内容証明郵便で送る
❹協議で使う証拠を準備する
❺相続人に電話や書面で特別寄与料の請求に関する協議をしたいことを伝える
内容証明郵便を送付するには費用が最低1,420円かかります。
その場合、電子内容証明を利用すると費用が安く済みます。
⑤相続人との協議
ステップ⑤は相続人との協議です。
相続人との協議とは、相続人と直接話し合い、特別寄与者の貢献(介護や労働)を認めてもらい、特別寄与料の金額や支払い方法に関する合意を目指すことです。
相続人との協議の流れは主に次の通りです。
❶被相続人への貢献の説明
❷証拠の提示
❸金額の提案
❹相続人の意見を聞く
❺相続人の反論に対応する
❻双方折り合いをつけて合意する
❼合意書の作成(公正証書の作成を推奨)
❽支払いを受け取る(銀行振込で受け取り、通帳に記録)
特別寄与料の支払いを受け取ることができればこれで終了です。
もし協議がまとまらなかった場合は次のステップにすすむことになります。
⓺調停の申し立て
ステップ⓺は調停の申し立てをすることです。
調停の申し立てとは、特別寄与料の金額や支払いについて相続人と話し合っても合意に至らなかった場合に、家庭裁判所に特別寄与料の請求の調停をする手続きのことです。
この手続きでは、裁判所の調停委員が間に入り、特別寄与者の特別寄与の内容や相続人の状況などを聞きながら、公平な立場で話し合いを進めてくれます。
調停委員は、落としどころを探ったりしながら、双方が納得できる解決策を見つける手助けをしてくれます。
注意点は特別寄与料請求の期限内に始めることです。
調停申し立ての流れは次の通りです。
❶申し立ての期限を確認する
❷管轄の家庭裁判所を確認する
❸必要書類を準備する
❹調停を申し立てる
❺調停への出席
❻調停の結果
調停の最終回、調停委員が合意内容を口頭で確認するので特別寄与者と相続人が「はい」と答えれば合意が成立します。
合意が成立すると、合意内容は調停調書にまとめられ相続人はその内容に従って支払う義務が生じます。
特別寄与料の支払いを受け取ることができればこれで終了です。
調停で合意が成立しなかった場合、調停不成立となります。
調停不成立の場合は、家庭裁判所に特別寄与料の審判を申し立てることができます。
⑦審判の手続き
ステップ⑦は審判の手続きをすることです。
審判の手続きとは、話し合いで特別寄与料の合意ができなかった時に、家庭裁判所の裁判官が最終的な判断を下す手続きのことです。
調停が話し合いで解決する場であるのに対し、審判は提出された証拠や主張を基に裁判官が判断します。
審判では、裁判官が証拠を厳しくチェックし、法律に基づいて公平に決定します。
審判の結果(審判書)には法的効力があり、相続人が払わない場合、強制執行(財産差し押さえ)が可能です。
審判の流れは主に次の通りです。
❶調停不成立から審判への移行
❷審判のための準備
❸審判期日に出席
❹審判決定
裁判官が証拠と主張を検討し、特別寄与料を決定します。
その後、審判書が特別寄与者と相続人に送られ、相続人が審判書に従い指定期限内に銀行に振り込むとそこで終了です。
払わない場合は強制執行が開始されます。
特別寄与料の税務上の扱いと対策
特別寄与料は遺産分割を経て親族に支払われた分は相続財産から控除できるため、相続税の負担を軽減する対策にもなります。
ただし申告が必要となり、手続きが複雑なため、税理士への相談が発生することが考えられます。
また生前贈与や遺贈といった生前の相続対策も特別寄与料と関連して検討することが可能です。
多くの税理士が無料相談サービスを提供しており、具体的な割合の算出や申告についてアドバイスを得ることができます。
特別寄与料に関する最新の法改正
特別寄与料制度は、2019年7月1日に施行された民法改正によって新たに導入された制度です。
特別寄与料が新設される以前は、法定相続人でない場合は、どんなに被相続人に長年介護や看護を行っていても法的には一切金銭を受け取ることができませんでした。
ところが2019年7月1日から施行された民法改正により、親族が相続人に対して「特別寄与料の請求」ができるようになりました。
これにより被相続人の「息子の嫁」であっても、被相続人への献身的な貢献に対して金銭を受け取ることができます。
特別寄与料制度のポイントは主に次の3点です。
・被相続人の相続人でない親族が対象
・被相続人への労務の提供を無償で行い、財産の維持・増加に貢献
・請求には厳格な期限があり協議・調停・審判の手続きを踏む
ただしこれまで相続人が被相続人の財産の維持・増加に特別に貢献した場合に、貢献度に応じて遺産相続を法定相続分以上に取得できる寄与分制度はありました。
特別寄与料に関するトピックス
こちらでは特別寄与料の請求が認められたケースについて解説します。
被相続人(父)が亡くなり、相続人は長男と次男の2人でした。
長男の嫁が長年にわたり無償で被相続人の介護を行っていました。
長男の嫁は相続人である長男と次男に特別寄与料を請求します。
ところが長男と次男は拒否。
その後裁判にまですすみ、長男の嫁は裁判所に無償介護を証拠として認めてもらい勝訴します。
結果、相続人に対して特別寄与料の支払いを命じる判決が下り、長男と次男の2人は長男の嫁に金銭を支払いました。
まとめ
今回は特別寄与料の請求についてご紹介しました。
これまで、相続人ではない親族が被相続人の介護や事業にどれだけ献身的に尽くしても、その貢献が法的に評価されることはありませんでした。
ところが特別寄与料制度が導入されたことで、その貢献に見合った金銭を相続人に対して請求できるという道が開かれました。
ただし、特別寄与料の請求は簡単ではありません。
特別寄与料の請求を活用して、相続人からの金銭の受け取りを目指す場合には、弁護士などの専門家への早期依頼が重要です。
弁護士に相談することで次の3つのメリットを得ることができます。
・相続人との感情的なトラブルを回避できる
・相続人との交渉のストレスから解放される
・調停や審判になってもスムーズに対応できる
もし現在特別寄与料の請求をご検討中の方は、ぜひ京浜蒲田法律事務所に依頼することをおすすめします。