養育費不払いに対する対応(養育費支払いの現状と取り決め方法)
1 養育費支払いの現状
離婚する夫婦に未成熟の子どもがいる場合、子どもの生活費として支払われるものが養育費です。子供を育てていくために多くのお金がいることは明らかであり、養育費は子どもが自立して生活できるようになるまでの大事なお金の問題ということになります。
ところが、厚生労働省の平成28年度全国ひとり親世帯等調査によると、現在養育費を受けている母子家庭は約24%、父子家庭は約3%にとどまっています(取り決め率は母子家庭が約43%、父子家庭が約21%です。)。養育費の取り決めをしていない理由としては、「相手に支払う意思や能力がないと思った」、「相手と関わりたくない」、「取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった」といったものが主な理由です。
このように、子どもの成長にとって大切な養育費の取り決め率、受給率が高いとは言えず、いかに養育費を支払ってもらうかということが重要な問題となります。
2 養育費の取り決め方法
養育費の取り決めについては、口頭(口約束)か書面の方法があり、書面でなければならないという決まりがあるわけではありません。中には、夫婦間の口約束によって養育費が支払われているケースもあると思います。
しかし、養育費は、金額、支払期間、支払方法、毎月の支払期限、特別の出費がある場合など、取り決めなくてはならないことが複数あります。そのため、言った・言わないのトラブルを防ぐためにも、書面で取り決めすることが得策です。
また、書面にする方法として、夫婦間で合意書等のタイトルで書面を取り交わす方法、公証役場で公正証書形式で取り交わす方法、家庭裁判所の調停調書や和解調書等で取り交わす方法などがあります。
このうち、夫婦間で取り交わした書面には強制力(約束した内容での支払いがなされない場合に、強制執行を申し立てることができる力)がありませんが、公正証書や調停調書、和解調書には強制力があります。強制力があると、その分支払いをする側にとってプレッシャーとなるため、約束した内容どおりに履行してもらえる可能性が高くなります。
そのため、養育費の支払いをより確実なものとするためには、公正証書や調停調書での取り決めとすることがよいと言えます。
3 さいごに
約束どおりの養育費の支払いがなされない場合の対応については、また次の機会にお話ししたいと思います。
養育費に関しては、養育費の話をしたくてもできない、養育費を書面で取り交わしたくてもできないといったご事情がある方もいらっしゃると思います。弁護士はご本人に代わって相手方と交渉を行ったりすることが可能ですので、お悩みの際はお問い合わせください。
その他のコラム
婚約破棄するための正当な理由とは? 婚約を不当に解消された時の慰謝料の請求方法や相談先も解説
婚約破棄には正当な理由が必要です。婚約とは将来結婚する約束のことで法的に保護されているからです。一方的な破棄で正当な理由がないケースでは、慰謝料が発生します。婚約破棄された場合の対処法や慰謝料の相場、請求方法について解説します。 婚約破棄するためには正当な理由が必要? 対処法や慰謝料の相場、請求方法も解説 婚約破棄するためには正当な理由が必要です。 婚約には法的な効力が認められているため、有効な婚約が成立...
熟年離婚で将来の年金はどうなる?┃年金分割の制度・手続きと注意点を分かりやすく解説
はじめに 「熟年離婚を考えているが老後の年金はどうなるのだろう」と不安な方も多いでしょう。熟年離婚時の年金分割について、分割方法や注意点を把握することは大切です。 特に専業主婦(主夫)の場合、長い結婚生活後の年金が重要な生活資金となるため、しっかりと制度を理解しておくことが求められます。 本記事では年金分割に関する基本的な制度や手続きを分かりやすく解説し、熟年離婚を検討する方々が役立てられる情報を紹介します。 ...
財産分与で控訴するかは慎重に(財産分与における不利益変更禁止の原則の不適用)
1 不利益変更禁止の原則とは? 民事訴訟法304条は、第二審(控訴審)における判決について、「第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、することができる」と規定しています。 民事訴訟では、当事者が申し立てていない事項について判断をすることはできないとされています(民事訴訟法246条。これを処分権主義といいます。)。 この原則に基づき、第二審(控訴審)において審理・判断の対象と...
家族間問題を扱う家事調停に「ウェブ調停」導入へ
1 概要 最高裁判所は、離婚調停や遺産分割調停などの家族間の紛争を扱う家事調停に、インターネット上で手続を進める「ウェブ会議」を導入する方針を固めました。 裁判のIT化の一環で、令和3年のうちに、東京、大阪、名古屋、福岡の4つの家庭裁判所で試行を開始し、その後、他地域の家庭裁判所への拡大も検討するようです。 2 これまでの家事調停 これまでの家事調停は、基本的に、申立てをした...
不動産収入は婚姻費用・養育費算定の基礎となるか?
1 はじめに 婚姻費用や養育費の算定は、給与所得や事業所得を基礎にして行うことが通常です。 もっとも、中には、夫婦の一方又は双方に不動産収入(家賃収入)が存在することがあります。 この場合、婚姻費用や養育費の算定に当たり、給与所得や事業所得の他に、不動産収入も基礎とすることができるかという問題があります。 この問題に関する裁判例を見てみましょう。 ...