不動産収入は婚姻費用・養育費算定の基礎となるか?
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1 はじめに
婚姻費用や養育費の算定は、給与所得や事業所得を基礎にして行うことが通常です。
もっとも、中には、夫婦の一方又は双方に不動産収入(家賃収入)が存在することがあります。
この場合、婚姻費用や養育費の算定に当たり、給与所得や事業所得の他に、不動産収入も基礎とすることができるかという問題があります。
この問題に関する裁判例を見てみましょう。
2 裁判例
(1)東京高裁昭和57年7月26日決定
夫が6億円以上の財産を相続し、その相続財産(特有財産)の一部を貸与して賃料を得ていた事案です。
裁判所は、「婚姻費用の分担額を決定するに際し考慮すべき収入は、主として相手方(夫)の給与所得である」と判断し、婚姻費用の算定に当たり、特有財産から生じた賃料収入を基礎としませんでした。
その理由としては、「専ら相手方(夫)が勤務先から得る給与所得によって家庭生活を営み、相続財産…(で)得た賃料収入は、直接生計の資とはされていなかった」と述べられています。
(2)東京高裁昭和42年5月23日決定
妻が特有財産である不動産から月3万円の賃料収入を得ていた事案です。
裁判所は、「特有財産の収入が原則として分担額決定の資料とすべきではないという理由…はない。…賃料収入を考慮して婚姻費用の分担額を決めることは当然のことである」と述べ、婚姻費用算定の基礎として、妻の特有財産からの賃料収入を考慮に入れました。
(3)東京高裁平成28年9月14日決定
妻から夫に対して婚姻費用の分担を求めた事例で、夫には2000万円を超える給与収入があったほか、不動産収入や配当収入もあり、これらを加えた収入総額は4000万円近くに上りました。
裁判所は、給与収入だけでなく、不動産収入や配当収入も基礎収入として考慮した上で、婚姻費用を算定しました。
3 本問題に対する考え方(私見)
ご覧のとおり、本問題に関して裁判所の判断は統一しているわけではなく、個々の事案によって判断が分かれる可能性があります。
少なくとも、この問題を考えるに当たっては、賃料収入を生み出す不動産が共有財産か特有財産か、その賃料は夫婦(家族)の生活費の原資になっていたか否か、といった点が重要になると考えられます。
すなわち、不動産が共有財産(例えば、婚姻後に投資用としてマンションを購入したようなケース)で、その家賃収入が給与収入とともに夫婦(家族)の生活費となっていたような場合には、当該家賃収入も婚姻費用・養育費の基礎になる可能性が高いと思われます。
反対に、不動産が特有財産(例えば、夫婦の一方が相続によって貸マンションを相続したようなケース)で、その家賃収入が夫婦(家族)の生活費の原資となっていなかった場合には、東京高裁昭和57年7月26日決定のように、当該家賃収入は婚姻費用・養育費の基礎にはならないという判断になる可能性が高くなると思われます。
もっとも、特有財産である不動産から生じた家賃収入について、財産分与で清算を求めることができるかについては、また別の問題として考える必要があります。
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