離婚後に調停を申し立てることができるのか?離婚後の紛争調整調停やその他の手続を解説
離婚に際しては、財産分与を始めとして様々な事項を決める必要がありますが、協議離婚の場合、よく話し合いを行わないまま、離婚届を提出し、後悔する方もいらっしゃいます。
離婚後、協議を行い、まとまらない場合は、調停手続を利用することができるのでしょうか?
離婚後の紛争調整調停を始めとする調停手続について解説します。
何も決めないで離婚できるのか?
離婚の大半は「協議離婚」といい、当事者の話し合いだけで離婚届を提出しています。
離婚届を作成する際は、夫婦に未成年の子どもがいる場合、子どもの親権者を誰にするのかという点に関しては、必ず話し合いを行って、反映させる必要があります。
しかし、その他の離婚に際して一般的に必要になる取り決めは、必ずしも決めていなくても離婚届は受け付けられます。
例えば、離婚届には、
- ・未成年の子どもとの面会交流について取り決めをしているか。
- ・経済的に自立していない子について養育費の取り決めをしているかどうか。
についてチェックする項目がありますが、「まだ決めていない」にチェックを入れたとしても問題ありません。
そのため、子どもの親権者以外のことは何も決めないで、「とりあえず、離婚」してしまい、後悔することも少なくありません。
離婚後の協議や調停申し立ては可能なのか?
離婚後に、離婚に際して取り決めすべき、様々な事項について、改めて協議を行うことも可能です。
もちろん、当事者同士の話し合いだけで解決できない場合は、家庭裁判所の調停手続を利用することもできます。
まず、離婚に際して、取り決めすべき事項について確認しておきましょう。
- 財産分与
- 婚姻している間に夫婦が得た財産を離婚する際又は離婚後に分けることです。
- 離婚慰謝料
- 夫婦の一方の不倫が原因で離婚する場合などは有責配偶者等への慰謝料請求が可能です。
- 年金分割
- 婚姻期間中の厚生年金部分について、離婚時に分け合うことです。
合意分割と3号分割制度があります。 - 親権者
- 夫婦に未成年の子供がいる場合には離婚時に親権者を決めます。
離婚後に変更することも可能です。 - 養育費
- 夫婦に未成年の子供や経済的に自立していない子供がいる場合に、子どもの養育費の分担について取り決めします。
- 面会交流
- 夫婦に未成年の子供がいる場合に、離婚後の非監護親と子どもの交流方法について取り決めします。
- 婚姻費用
- 離婚前に別居していた場合は、別居にかかった費用などの分担を求めることができます。
- その他の事項
- 離婚後の生活に必要な衣類その他の荷物の引渡しを求めることや復縁を拒絶するといったような話し合いもできます。
離婚後の財産分与と調停
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して得た財産を離婚に際して平等に分け合うことです。
離婚後に財産分与の調停を行うことも可能です。
財産分与の割合・分け方
財産分与の割合や、どの財産を夫婦のどちらが受け取るかについては、民法上決まりがあるわけではないため、夫婦の協議により決めるのが原則です。
また、財産分与の対象となる財産は、夫婦共有名義の財産に限るわけではありません。
例えば、夫婦で住んでいた建物と土地の名義が夫になっていても、その建物と土地について、妻が財産分与を求めることも可能です。
財産分与の際には、夫婦の財産は、それぞれ2分の1ずつの割合で等しく分けるのが原則とされています。
財産分与の調停申立てができる期間
財産分与は、不動産などの高額な財産も絡むことが多いため、離婚前に協議を成立させるのが望ましいです。
ただ、離婚届を提出した後は、協議ができなくなるわけではなく、離婚後の協議も可能ですし、当事者同士で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることが可能です。
なお、離婚後の家庭裁判所への調停申し立ては、離婚の時から「2年以内」に行わなければならないという制約が設けられています。
財産分与制度の法改正について
財産分与について規定した民法768条は、令和6年5月の改正民法により変わります。
離婚後の家庭裁判所への調停申し立ては、離婚の時から「5年以内」なら可能になります。
また、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度が明確でない場合は、「相等しいもの」とされました。
そのため、夫婦の財産は2分の1に分けるのが原則であることが明文化されたと言えます。
離婚後の慰謝料請求と調停
離婚の際の慰謝料は、離婚届を出す前に請求しておくことが望ましいですが、離婚届を出した後でも請求することは可能です。
離婚に伴う慰謝料請求の時効期間
離婚に伴い、慰謝料請求をするパターンとしては2つ挙げられます。
- 離婚原因慰謝料
- 有責配偶者の不倫などを理由に離婚する場合の慰謝料です。
- 離婚自体慰謝料
- 離婚したこと自体についての慰謝料です。
離婚に伴う慰謝料は、不法行為に対する損害賠償請求と同じ時効期間にかかります。
具体的には、
- ・被害者が損害及び加害者を知った時から3年間
- ・不法行為の時から20年間
いずれかの期間が経過することで時効になります。
そのため、不倫などについての慰謝料請求は、不倫が発覚した時点を起算点に3年以内に行わなければならないこともあります。
一方、離婚自体慰謝料については、離婚時を起算点に3年以内に行えば間に合うということです。
離婚後の慰謝料請求調停手続き
家庭裁判所の慰謝料請求調停は、離婚後に申し立てを行うことが前提の制度になっています。
そのため、離婚後も慰謝料に関して話し合いがまとまっていない場合は、慰謝料請求調停を申し立てることができます。
なお、離婚前に慰謝料請求について調停を申し立てる際は、夫婦関係調整調停(離婚)として話し合いを行う形になります。
離婚後の年金分割と調停
年金分割は、婚姻期間中の厚生年金記録を夫婦で分割する制度です。
年収の多い方の年金が削られて、少ない方に分割される形になります。
年金分割は、合意分割制度と3号分割制度があります。
このうち、3号分割は、国民年金の第3号被保険者だった方が年金事務所等で手続きするだけでよく、協議は必要ありません。
一方、合意分割は、当事者間の協議で割合を決める必要があります。
年金分割の調停
合意分割について当事者間の話し合いで決められない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。
離婚前は、夫婦関係調整調停(離婚)の中で、年金分割について話し合いができます。
離婚後は、年金分割の割合を定める審判又は調停を申し立てることができます。
審判の場合は、裁判官が書面照会や当事者の意見を聞いたうえで、按分割合を決定します。
調停の場合は、他の調停と同様に調停委員を介して話し合いが行われ、調停成立を目指す形になります。
離婚後の年金分割は2年以内
離婚後の年金分割の手続きは、「離婚等をした日の翌日から起算して2年以内」に行わなければなりません。
また、離婚後に年金分割の割合を定める審判又は調停を家庭裁判所に申し立てることができる期間についても、「離婚した日の翌日から起算して2年以内」と定められています。
離婚後の親権者の変更と調停
親権者は、離婚届に記載しなければならないため、必ず、離婚時に取り決めを行います。
しかし、よく話し合いを行わないままに、親権者を決めてしまうことも珍しくありません。
そのため、離婚後に親権者を変更したいと考える方も少なくありません。
離婚後の親権者の変更方法
離婚後の親権者の変更は、元夫婦の話し合いでできるわけではなく、必ず家庭裁判所の調停・審判によって行う必要があります。
この手続きを「親権者変更調停・審判」と言います。
親権者の変更は、子どもの健全な成長に大きな影響を及ぼすことになるため、家庭裁判所のチェックが必要とされているわけです。
当事者間で合意が成立していれば、調停委員と数回やり取りするだけで、比較的容易に親権者の変更が認められます。
協議が難航する場合や家庭環境などの確認が必要な場合は、家庭裁判所調査官による調査が行われるなど、手続きに手間がかかります。
離婚後の養育費の請求と調停
未成年の子供のための養育費は、離婚届にもチェック欄があることから分かる通り、離婚時に取り決めしておくのが理想です。
しかし、離婚時に取り決めしていない場合でも、離婚後に養育費に関する協議を行うことができます。
養育費に時効はあるのか?
まず、養育費の取り決めについては、離婚後何年以内に取り決めを行わないと、請求できなくなるといった時効期間は設けられていません。
子どもが未成年である間は、子どもを養育する親の義務は継続するからです。
そのため、離婚から何年経過していても、養育費に関する協議を行うことができます。
当事者だけで協議がまとまらない場合は、子の監護に関する処分(養育費)調停を申し立てることができます。
ただ、一旦取り決めした養育費が支払われない場合、その支払請求権については、他の金銭債権と同様に消滅時効があります。
具体的には、養育費の支払期日から5年経過した場合は、養育費の支払請求権が時効にかかってしまいます。
離婚後に養育費を変更する方法
離婚後に養育費を変更することも可能です。
養育費の額が少ない場合や支払う側の負担が重すぎる場合です。
当事者間で話し合って、養育費の額を変更することもできますし、協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることもできます。
なお、養育費請求調停では、養育費を変更すべき「事情の変更」があったかどうかがポイントになります。
法定養育費制度の活用
令和6年5月の改正民法により、法定養育費制度が導入されました。
改正法施行後は離婚時に養育費を具体的に取り決めしていなくても、最低限の養育費を請求できるようになります。
離婚後の面会交流の協議と調停
未成年の子供と非監護親の面会交流についても、離婚届にもチェック欄があることから分かる通り、離婚時に取り決めしておくのが理想です。
離婚時に取り決めをしなかった場合でも、離婚後に面会交流に関して取り決めを行うことができます。
離婚後に面会交流の取り決めを行う方法
離婚後に面会交流の取り決めを行うには、まず、当事者間で協議を行います。
話し合いの結果ルールを決めた場合は、そのルールに従って面会交流を行います。
面会交流の取り決めは口約束でも成立させることができますが、後のトラブルを防止するためには、話し合った結果を文書化することが望ましいです。
話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に子の監護に関する処分(面会交流)調停を申し立てることができます。
離婚後に面会交流の取り決めを変更する方法
離婚後に面会交流の取り決めを変更することも可能です。
変更についても、当事者間で協議を行うのが原則で、話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に面会交流調停の申立てを行うことができます。
面会交流の内容、方法等の変更の調停では、「事情の変更」があったかどうかがポイントになります。
離婚後の婚姻費用の請求と調停
離婚の際の婚姻費用の請求とは、離婚の協議を行っている間に別居している場合に、別居にかかった費用の分担を相手方に求めることです。
そのため、離婚が成立した後の生活費については、元の配偶者に請求することはできません。
具体的な請求は、当事者の協議による他、家庭裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てることにより行うことができます。
離婚前の婚姻費用について離婚後に請求できるのか?
離婚前の婚姻費用について離婚後に請求できるのかについては、民法にも規定はなく、実務でもはっきりしていませんでした。
ただ、次の最高裁判決が注目されています。
婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものとはいえない(最決令和2年1月23日 民集 第74巻1号1頁)。
離婚前に家庭裁判所に婚姻費用分担審判の申立てを行っていれば、離婚後でも、婚姻費用分担請求権を行使できるということです。
では、離婚前に婚姻費用分担審判の申立てを行っていない場合はどうでしょうか?
この点については、最高裁判決で示されていません。
そのため、婚姻費用の請求については、離婚前に婚姻費用の分担請求調停を申し立てておくことが重要と言えます。
離婚後の紛争調整調停
離婚後も様々な場面で、元配偶者との協議や交渉が必要になることがあります。
例えば次のような問題が生じる場合です。
- ・離婚後の生活に必要な衣類や荷物の引渡しを求めたい。
- ・相手が置いて行った荷物の引き取りを求めたい。
- ・公的手続等をするために相手に協力をしてほしい。
- ・元配偶者からの復縁請求を拒否したい。
こうした問題は、当事者間の話し合いにより解決するのが基本ですが、協議が難しい場合は、家庭裁判所に離婚後の紛争調整調停を申し立てることもできます。
まとめ
離婚に際して決めるべきことは、離婚届を提出する前に話し合うか調停を行っておくのが望ましいです。
ただ、離婚届を出した後でも、離婚に伴って決めるべきことを話し合うことができますし、ほとんどの事項に関して調停手続を利用することができます。
もっとも、調停できる期間が制限されている事項もありますので、相手方に請求したいことは早めに行う必要があります。
離婚後の調停に関して分からないことがある場合は、弁護士にご相談ください。
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