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熟年離婚で将来の年金はどうなる?┃年金分割の制度・手続きと注意点を分かりやすく解説

 

はじめに

「熟年離婚を考えているが老後の年金はどうなるのだろう」と不安な方も多いでしょう。熟年離婚時の年金分割について、分割方法や注意点を把握することは大切です。

特に専業主婦(主夫)の場合、長い結婚生活後の年金が重要な生活資金となるため、しっかりと制度を理解しておくことが求められます。

本記事では年金分割に関する基本的な制度や手続きを分かりやすく解説し、熟年離婚を検討する方々が役立てられる情報を紹介します。

記事を読むと、年金分割できない方が検討すべき財産分与と慰謝料請求についても分かるようになるでしょう。

年金分割は熟年離婚するまでの婚姻期間中に納付された厚生年金を分ける仕組み

熟年離婚時に年金分割を行う際、重要となるのは婚姻期間中に納付された厚生年金保険料の額を基に分割を行うという制度です。
年金分割には主に2つの方法があります。

【合意分割】:夫婦の合意または裁判所の決定で分割割合が決定される
(上限は一般的に2分の1)

【3号分割】:自動的に2分の1で分割される

上記の方法で行うことになりますが、基本的には離婚してから2年以内に手続きを行うことが必要です。各方法の詳細については以下で詳しく解説します。

【合意分割】:夫婦の合意または裁判所の決定で分割割合が決定される
(上限は一般的に2分の1)

合意分割では、夫婦間で話し合いや裁判によって分割割合を決めます。通常は最大2分の1まで分割されます。この方法は2007年4月1日以降に施行され、婚姻期間中に支払った厚生年金の記録(標準報酬月額や標準賞与額)を基に分割します。

手続きを進めるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。

①婚姻期間中に厚生年金記録があること
②夫婦間で分割割合が合意または裁判で決定されていること
③離婚後2年以内に手続きを行うこと(期限を過ぎると原則として手続き不可)

分割を行った方と受け取った方の年金額は次のように計算されます。

分割を行った側の年金額
【自身の厚生年金記録 - 相手に移した分】を基に計算

分割を受けた側の年金額
【自身の厚生年金記録 + 相手からの移転額】を基に計算

分割後、受け取った年金を基に老齢基礎年金を受け取るには、受給資格期間と支給開始年齢を満たしている必要があります。

参考:日本年金機構「離婚時の厚生年金の分割(合意分割制度)」

【3号分割】:自動的に2分の1で分割される

3号分割は、主に第3号被保険者が利用できる制度で、その場合、請求によって対象期間の標準報酬が均等に分割されます。

この制度は2008年4月1日以降に適用され、離婚後、厚生年金記録を自動的に分割します。利用するためには、2008年5月1日以降に離婚したことが条件です。

3号分割を利用するための条件は次の通りです

婚姻期間に、2008年4月1日以降の第3号被保険者期間が含まれていること
離婚から2年以内に請求を行うこと

分割を行った側と受け取った側の年金額の計算方法は以下の通りです。

分割を行った側の年金額
【自分の厚生年金記録 - 移された記録】に基づき計算

分割を受けた側の年金額
【自分の厚生年金記録 + 移転された額】】に基づき計算

受給資格を満たし、年金支給開始年齢に達していれば、分割後の年金で老齢基礎年金が支給されることになります。

参考:日本年金機構「離婚時の厚生年金の分割(3号分割制度)」

合意分割と3号分割の主な違い

以下の一覧表で、合意分割と3号分割の主な違いをまとめました。

【合意分割と3号分割の比較一覧表】

合意分割と3号分割の違いは、分割される年金の保険料納付実績の範囲にあります。

合意分割では婚姻期間中のすべての厚生年金保険料納付実績が対象となりますが、3号分割は2008年4月1日以降に扶養配偶者であった期間に限られます。

また、3号分割は相手の同意なしに手続きを進められる点が特徴です。

年金分割は、状況によってどちらの制度が有利か異なるため、専門家のアドバイスを受けて不安を取り除くことをおすすめします。

熟年離婚後の年金分割手続き【5つのステップ】

熟年離婚を考える際に、年金分割は非常に重要な問題です。老後の生活設計に大きく影響を与えるため、年金分割の手続きは必要以上に慎重を期すべきです。ここでは、年金分割を進めるための5つの基本的なステップを紹介します。

①「情報通知書」を年金事務所で取得(3号分割の場合は不要)
②分割割合について配偶者と話し合う
③裁判所で法的手続きを行う(合意が難しい場合)
④年金事務所で正式に請求手続きをする
⑤「標準報酬改訂通知書」を受け取り内容を確認する

これから、それぞれのステップについて詳しく解説します。手続きに必要な書類や注意点も合わせて説明します。

①「情報通知書」を年金事務所で取得する(3号分割では不要)

年金分割を進める最初のステップは、正確な情報収集です。これに必要なのが「情報通知書」で、分割対象となる期間や年金記録が記載されています。なお、3号分割の場合はこの書類は必要ありません。

「情報通知書」は、離婚前後でも請求することが可能です。下記の必要となる書類等を持参し、年金事務所に提出してください。

基礎年金番号証明書またはマイナンバーカード
婚姻関係を示す戸籍謄本

「情報通知書」は、日本年金機構のホームページや年金事務所で入手可能です。請求手続き後に、日本年金機構から「年金分割のための情報通知書」が送付されます。

②分割割合について配偶者と話し合う

年金分割を行うには、夫婦間での合意が必要です。主に話し合うべき点は次の2つです。

年金分割を行うこと
どのような割合で分割するか

合意が成立した場合、その内容を記載した合意書を作成し、年金分割申請時に提出します。もし合意が難しい場合は、以下の方法で進めることも可能です。

合意書を公正証書として作成し公証役場で認証を受ける

また、離婚調停の場で年金分割に関する合意を形成することも可能です。

③裁判所で法的手続きを行う(合意が難しい場合)

夫婦間で合意が得られない場合、年金分割の申請者は裁判所に審判を申し立て、分割割合を決定してもらいます。裁判で年金分割の割合が決まった場合、その判決文を年金事務所に提出し、手続きを進めます。

離婚裁判が行われている場合には、裁判において年金分割を決めることも可能です。

④年金事務所で正式に請求手続きをする

合意が得られた場合や裁判所での決定後、年金事務所で請求手続きを行います。離婚後に合意書または裁判所の決定書を提出しなければ、手続きは完了しません。

年金分割の請求には期限があり、速やかに手続きを進めることが重要です。期限に遅れると、手続きを受けられなくなる可能性があるので注意しましょう。

⑤「標準報酬改訂通知書」を受け取り内容を確認する

年金分割手続きが完了すると、日本年金機構から改訂後の「標準報酬改訂通知書」が届きます。この通知書には、分割後の年金額が記載されています。内容をよく確認し、間違いがないかを確認しましょう。

共済組合に加入している場合は、共済組合からも通知が届くので、こちらも合わせて確認が必要です。

参考:日本年金機構「離婚時の年金分割」

熟年離婚での年金分割で注意すべき5つのポイント

年金分割に関する手続きと、その際に気をつけるべき5つの注意点について紹介します。

①年金分割の対象は配偶者が将来受け取る全額の年金ではない
②妻の年金を夫に分割する場合もある
③年金分割は必ず請求期限内に行う必要がある
④年金分割は婚姻期間中の厚生年金に関するもの┃国民年金(基礎年金)は分割対象外
⑤年金分割の手続きが煩雑で制度内容が理解しにくい

以上の5つの注意点について、詳しく見ていきましょう。

①年金分割の対象は配偶者が将来受け取る全額の年金ではない

年金分割で対象となるのは、婚姻期間中に支払われた厚生年金の保険料のみで、配偶者が受け取る年金全体を分けることはできません。

この制度は夫婦が共に年金保険料を支払ったことを前提としているため、個別に加入する国民年金は対象外です。

夫が40年間以上厚生年金に加入していても、30年の結婚生活であれば、分割対象となるのは30年分の厚生年金部分になります。

熟年離婚を考える場合、年金分割の対象範囲を確認し、老後の生活設計を考慮することが大切です。年金事務所で不安に思っていることを無料相談し、分割可能な年金額を把握した上で弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

②妻の年金を夫に分割する場合もある

年金分割は必ずしも夫から妻へ行われるわけではなく、妻から夫に分割されることもあります。共働きの家庭では、妻の年金保険料が夫以上に多く支払われている場合、その逆のケースが発生します。

妻が公務員や会社員で厚生年金に加入し、夫が個人事業主として国民年金に加入している場合には、妻の厚生年金の一部が夫に分割されるのです。

共働き夫婦の場合には、給与水準(収入)の高い配偶者から低い配偶者へと分割されるため、妻の給与が夫以上のケースでは、妻から夫への分割となることがあり得ます。

年金分割の対象を正確に把握し、老後の生活にどう影響するかを理解することが、熟年離婚を考える上では重要です。自分が夫に分割するケースに該当しないか、不安を取り除くためにも年金事務所で確認しておきましょう。

③年金分割は必ず請求期限内に行う必要がある

年金分割には請求期限があり、期限を過ぎると権利が失われる恐れがあります。手続きは年金事務所に対して改定請求を行うことで進めます。

年金分割に期限が設けられている理由は、離婚後の老後の生活保障を目的として、早急に権利を確定させることが求められるためです。基本的に、離婚日から2年以内に年金事務所へ請求を行う必要があります。

また、調停や審判を申し立てた場合、その手続きが終了する前に期限を過ぎても、特定の条件下では請求が認められる特例も存在します。

熟年離婚を考えている方は、年金分割の請求期限をしっかりと把握し、事前に年金事務所で無料相談して老後の権利を守りましょう。

④年金分割は婚姻期間中の厚生年金に関するもの┃国民年金(基礎年金)は分割対象外

年金分割は、婚姻期間中の厚生年金保険料を基に行われるため、国民年金(基礎年金)は分割の対象にはなりません。

会社員が加入する年金は、国民年金と厚生年金の2階建て構造ですが、1階部分に当たる国民年金の分割は行われません。

また、自営業者のように国民年金のみの加入者については、年金分割制度を利用することができません。そのため、年金分割を検討する際は、厚生年金に関する分割を前提に考え、老後に向けて財産分与や慰謝料等の他の方法も考慮する必要があります。

⑤年金分割の手続きが煩雑で制度内容が理解しにくい

年金分割の手続きは非常に複雑で、制度内容の理解が難しいため、専門家のサポートが重要です。年金制度全体が理解しづらく、「年金定期便」を見ただけでは正確に自分の年金状況を把握するのは難しいです。

また、夫婦間で分割の割合を決めるための話し合いや、必要書類を準備した上で年金事務所に足を運ぶケースもあります。

分割割合の決定や、必要書類を準備して年金事務所に出向くことが求められます。スムーズに進めるためには、専門家に早期に相談することが有効といえるでしょう。

専門家への費用はかかるものの、熟年離婚を考える際には、相手と対面せずにサポートを受ければ心理面の不安が軽減されます。

熟年離婚で年金分割できない方┃財産分与と慰謝料請求

夫が自営業者で国民年金のみの加入者の場合には、年金分割はできません。年金分割できない方のために、以下の2つを紹介します。

財産分与を検討してみる
慰謝料請求を検討してみる

どのような内容なのか詳しく見ていきましょう。

財産分与を検討してみる

年金分割の対象とならないケースでは、財産分与の選択肢が検討事項となります。

財産分与は、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を離婚時に分配する制度です。特に熟年離婚の場合、長年の結婚生活で築き上げた共有財産が対象となるため、老後の生活設計に思った以上に大きな影響を与えます。

婚姻期間中に形成された財産は、名義を問わず夫婦の共有財産とみなされるためです。夫婦の共有財産には、以下のものが挙げられます。

不動産(土地・建物)
預貯金
自動車
有価証券(株式等)
退職金
企業年金等

熟年離婚では、すでに夫が退職金を受け取っているケースも多く、見逃せない財産分与の対象です。

財産分与の基本的な割合は夫婦で2分の1ずつですが、以下の財産は対象外となります。

夫が結婚前から保有していた個人の預貯金
夫の親からの相続財産等

以上は特定財産として扱われ、分与の対象とはなりません。

熟年離婚を検討する際は、年金分割と併せて財産分与についても専門家に相談することをおすすめします。特に、夫の退職金や企業年金等高額な資産がある場合には、慎重な判断が必要です。

慰謝料請求を検討してみる

熟年離婚において慰謝料請求は、夫からの不当な行為による精神的・肉体的な苦痛に対する損害賠償制度として機能します。

慰謝料の対象となる行為は多岐にわたります。一般的に知られている不貞行為だけではありません。

モラルハラスメントや身体的・精神的なドメスティックバイオレンス(DV)などは、請求事由となり得ます。長年の結婚生活の中で蓄積された精神的な苦痛も、補償の対象となる可能性があるでしょう。

具体的な事例として、以下のような行為が慰謝料請求の根拠となります。

継続的な暴言や侮辱的な言動
生活費の放棄
度重なる暴力行為
夫の親族への不当な干渉等

ただし、円滑な離婚手続きのためには、慰謝料請求の方法を検討する必要があります。場合によっては、慰謝料という名目ではなく、財産分与の増額という形で合意を目指すことも有効な選択肢となるでしょう。

弁護士などの専門家に相談しながら、最適な方法を見出すことをおすすめします。

まとめ:年金分割制度を理解し熟年離婚へ備えましょう

熟年離婚における年金分割は老後の生活設計に大きな影響を与えるため、制度を十分に理解して不安を減らしておきましょう。

特に注意すべきなのは、年金分割の請求が離婚日から2年以内に行わなければならない点です。加えて、年金分割の対象となるのお金は婚姻期間中に支払われた厚生年金のみで、妻から夫への分割もあり得ることを忘れてはいけません。

熟年離婚を考える際には、制度の複雑さを理解し、早期に専門家に相談して準備を整えることが、老後の経済的安定につながるでしょう。本記事がお役に立てれば幸いです。

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